・・・そうして彼の田虫は彼の腹へ癌のようにますます深刻に根を張っていった。この腹に田虫を繁茂させながら、なおかつヨーロッパの天地を攪乱させているナポレオンの姿を見ていると、それは丁度、彼の腹の上の奇怪な田虫が、黙々としてヨーロッパの天地を攪乱して・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・時々身ぶりをするけれども決して相手に触れたり、腕に手を置いたりなどはしない。深刻な眼は相手の人の額の後ろに隠れている思想を見徹しているようだ。肉体と肉体とがいかに接近してもそれは彼女には気にならないので、ただ魂と魂との接近のみ感じるのである・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・かえって強烈に深刻に現われて行く。 ――こういう事を考えるようになってから自分はどういう風に変化したか。自分の内にあって自分を軽蔑する者がますます強くなって来たばかりである。 しかし我を斥けようとする要求は、今自分の内に最も切実に活・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫