・・・選択愛憎等の情緒的な心情もアプリオリの内容を持ち、「心情の秩序」が存在する。道徳価値の把握は知的作用によらず、情緒的な直覚によって価値感知されるのである。これがシェーラーのいわゆる情緒的直覚主義の立場である。シェーラーはさらに価値の等級を直・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それとともに、彼の立宗以来五十三歳までの、二十二年間の獅子王のごとき奮闘がいかにかかるやさしく、美しき心情から発し得たかに、驚異の念を持たざるを得ないのである。実に優にやさしき者が純熱一すじによって、火焔の如く、瀑布の如く猛烈たり得る活ける・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・人の心は恃み難しとして神にゆく者は少なくないが、それほどでなくても少なくとも宗教的心情を抱くようになるものである。しかし私たちはすべての人間が別離を味わったからといって、あるいは殉死し、仏門に帰し人生の希望を失うことを期待するものではない。・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・という詩だけは、七五調の古い新体詩の形に束縛されつゝもさすがに肉親に関係することであるだけ、真情があふれている。旅順の城はほろぶともほろびずとても何事か君知るべきやあきびとの家のおきてになかりけり君死にたまふ・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・としみじみと云うその真情に誘い込まれて、源三もホロリとはなりながらなお、「だって、おいらあ男の児だもの、やっぱり一人で出世したいや。」と自分の思わくとお浪の思わくとの異っているのを悲む色を面に現しつつ、正直にしかも剛情に云った。・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・これは商人で、大身上で、素敵な物を買出すので名を得ていた。千金を惜まずして奇玩をこれ購うので、董元宰の旧蔵の漢玉章、劉海日の旧蔵の商金鼎なんというものも、皆杜九如の手に落ちた位である。この杜九如が唐太常の家にある定鼎の噂を聞いていて、かねが・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・た娘が口を添えて、大層お気に入ったご様子ですが、お気に召しましたのは其盃の仕合せというものでございます、宜しゅうございますからお持帰下さいまし、失礼でございますけれど差上げとうございます、ねえお父様、進上げたっていいでしょう、と取りなしてく・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・ これは、放言でもなく、壮語でもなく、かざりのない真情である。ほんとうによくわたくしを解し、わたくしを知っていた人ならば、またこの真情を察してくれるにちがいない。堺利彦は、「非常のこととは感じないで、なんだか自然の成り行きのように思われ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・無辜の良民であって、単に教会の信条に服さないとの嫌疑のために焚殺されたものは、幾十万を算するではないか。フランス革命の恐怖時代を見よ。政治上の党派をことにするという故をもって斬罪となった者は、日に幾千人にものぼっているではないか。日本幕府の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 西班牙に宗教裁判の設けられたる当時を見よ、無辜の良民にして単に教会の信条に服せずとの嫌疑の為めに焚殺されたる幾十万を算するではない歟。仏国革命の恐怖時代を見よ、政治上の党派を異にすというの故を以て斬罪となれる者、日に幾千人に上れるでは・・・ 幸徳秋水 「死生」
出典:青空文庫