・・・ 実験室における割れ目の問題が地殻に適用されるとなると、そこには地質学や地震学の方面に多大な応用範囲が見いだされる。これに関してはかえって地質学者の多くが懐疑的であるように見えるが、物理学者の目から見れば、この適用は、もし適当な注意のも・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 昨年のある日の午後、彼は某研究所にある若い友人を尋ねたが、いつもの自室にその人はいなかった。そこらの部屋を捜しあるいたが、尋ねる人もその他の人もどこにも見えなかった。おしまいにある部屋のドアを押しあけてのぞくと、そこにはおおぜいの若い・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・そうしてみた後にわれわれは、事によると、せっかくのその修正の成果が意外にも単調一律なよそ行きの美句の退屈なる連鎖になりおおせたことを発見して茫然自失するようなことになりはしないか。 連句と音楽とのいろいろな並行性を考えるときに、いつも私・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・今まで茫然と自失していた私に、ここに立って、この道からこう行かなければならないと指図をしてくれたものは実にこの自我本位の四字なのであります。 自白すれば私はその四字から新たに出立したのであります。そうして今のようにただ人の尻馬にばかり乗・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・なお進て、天文地質の論を聞けば、大空の茫々、日月星辰の運転に定則あるを知るべし。地皮の層々、幾千万年の天工に成りて、その物質の位置に順序の紊れざるを知るべし。歴史を読めば、中津藩もまたただ徳川時代三百藩の一のみ。徳川はただ日本一島の政権を執・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・主観的の句の複雑なるうき我に砧打て今は又やみねのごときに至りては蕪村集中また他にあらざるもの、もし芭蕉をしてこれを見せしめば惘然自失言うところを知らざるべし。精細的美 外に広きものこれを複雑と謂い、内に詳らかなるもの・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・四月二日 水曜日 晴今日は三年生は地質と土性の実習だった。斉藤先生が先に立って女学校の裏で洪積層と第三紀の泥岩の露出を見てそれからだんだん土性を調べながら小船渡の北上の岸へ行った。河へ出ている広い泥岩の露出で奇体なギ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・なぜならそこは第三紀と呼ばれる地質時代の終り頃、たしかにたびたび海の渚だったからでした。その証拠には、第一にその泥岩は、東の北上山地のへりから、西の中央分水嶺の麓まで、一枚の板のようになってずうっとひろがっていました。ただその大部分がその上・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・「東京帝国大学校地質学教室行、」と書いた大きな札がつけられました。 そして、みんなは、「よいしょ。よいしょ。」と云いながら包みを、荷馬車へのせました。「さあ、よし、行こう。」 馬はプルルルと鼻を一つ鳴らして、青い青い向うの野・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
・・・(そいじゃ頂(はっは、なあに、こごらのご馳走(地質です。もうからない仕事餅を噛み切って呑み下してまた云った。(化石化石も嘉吉は知っていた。(ええ海百合です。外でもとりました。この岩はまだ上流にも二、三ヶ所学生は何でももう早く餅をげろ呑みにし・・・ 宮沢賢治 「十六日」
出典:青空文庫