・・・だが私は、最も人間性の発展、独自性、時代性、そこに生じるさまざまの軋轢、抗争の価値を理解する筈の芸術家の生活の中でも、親子の関係は人間的先輩が次代の担いてである若い人間を観るという風に行っていない場合が多く、よきにせよ、あしきにせよ、家長風・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・無事に女学校教育を終らせて、嫁入らせようとしている親の手にわたすのが、一貫した目的であったから、万事が事大主義で、髪の形まで、干渉した。ほんの何年か経ったあとには、すべての女学生はおかっぱとさえなったが、一般がそうなればその女学校の先生たち・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・今日文化の全面に亙って棲息している事大的な棒振り的理論を、作曲家たちも演奏者たちも、しっかりした音楽的教養、人間としての判断力、穢れざる趣味で選択批判してゆかなければならないでしょう。 それにつけて、音楽批評家の任務は重大と思われますが・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・政治について婦人のもたなければならない自覚をもてと云われるなら、それは、政治の事大主義に膝を折ることではなくて、小さいながらまともな種をより出して、それを成長させる地道な見とおしをもつことではなかろうか。 ウォーレスの進歩党綱領が発表さ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・その次代の交代者たるコムソモール、労農通信員たちの日常生活はどうであろうか? 彼等はめいめいの職場にあって、すっかり生産と結ばれて育って来ている。質のよい熟練工、技術家、専門家としてきっちりソヴェト生産の中軸的活動者となっている。或る産業に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・その下から、自然発生的に、やがては次第に意識的に、次代のジェネレーションに生きついでゆこうとする要素と、同じ環境から生い立って、その善意のすべてにかかわらず様々の道をとおって壊滅を辿らなければならない者と、それらも大なり小なりの典型として描・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・そして、その工合いいという判断はいつもとかく事大主義であるのが通例である。今日ならば、今日華やかに見える事業、地位、或は華やかになりそうと思われる方角へ、その選択をもってゆく。そういう親は、その人々なりの善意からではあっても、やはり娘一人を・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・権力というものに対する事大主義的な追随や、機械的な政治の文学に対する優位の承認を結果するであろうという危険は、誰の目にも明かである。プロレタリア文学が、方針に於て或る時期機械的な政治の優位を認めたと云って、文学を死滅さすものだと非難した人を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・反映論風に唯物史観が俗流化されて一般に流布されているため、青年の多くのものは、人類史的規模の中で主体的に自己の人間性の積極性をつかまず、何しろこの世の中で、と、現代の情勢に万端の責任を転嫁して、卑俗な事大主義の生きかたをしている、それが誤り・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・自身がいわばすでに功成り名をとげた人々であるそれら大多数の婦人たちは、政治的に、すなわち客観的に現実的に社会現象を判断し対処してゆく能力は欠いていて、事大的な追随を政治的な態度と思いあやまって、結果としてはかえって、時局を漫画化する登場人物・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫