・・・ たしかに、あれは、関東大地震のとしではなかったかしら、と思うのであるが、そのとしの一夏を、私は母や叔母や姉やら従姉やらその他なんだか多勢で、浅虫温泉の旅館で遊び暮した事があって、その時、一番下のおしゃれな兄が、東京からやって来て、しば・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・ 第一日は物部川を渡って野市村の従姉の家で泊まって、次の晩は加領郷泊り、そうして三晩目に室津の町に辿り付いたように思う。翌日は東寺に先祖の一海和尚の墓に参って、室戸岬の荒涼で雄大な風景を眺めたり、昔この港の人柱になって切腹した義人の碑を・・・ 寺田寅彦 「初旅」
・・・道太の姉や従姉妹や姪や、そんな人たちが、次ぎ次ぎににK市から来て、山へ登ってきていたが、部屋が暑苦しいのと、事務所の人たちに迷惑をかけるのを恐れて、彼はK市で少しほっとしようと思って降りてきた。「何しろ七月はばかに忙しい月で、すっかり頭・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ ふき子が、従姉の胸の前へ頭を出して、忠一の手にある献立を見たがった。「サンドウィッチ」すると、彼女は急に厳粛な眼つきをし、「あら、ここの美味しいのよ」と真顔でいった。彼等は、往来を見ながらそこの小さい店で紅茶とサンドウィッ・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・国史のようなものがこれ迄より重視されることも意味はあるだろうけれども、数学・理科をより軽く見る傾きが極端になれば、それは過ぎたるは及ばずにもなる。年限の永さが教育の実質の高さを直接に証明するものでないことを常識は知りぬいていると思う。知育偏・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・母とはいとこ同士で、向島で暮した娘時代共に寝起きしたお登世さんという従姉をのぞいて、おそらく母が誰よりも親しんだ女いとこの一人ではなかっただろうか。 その家の若い令嬢として、お孝さんは、私たち子供連のことも、おそらくは大磯のことも、きっ・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・ それはこの一月二十一日ごろのことであったと思うが、二十四日の新聞には、農林省で、米の強制供出案をもっていることと、警視庁が「板橋事件」重視しているということと、一層強くなっている食糧人民管理の潮先とが、並んで一枚の紙面を埋めているので・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ 彼女には伯母や、美人の従姉のレティシアのように、よい結婚ばかり当にしている心持が我慢出来ませんでした。 天性数学的な頭脳を持ち、研究心と把持力とを具えたロザリーは、自ら、事務的なことに興味を持ち出しました。 彼女は、事務所の仕・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・母はマリア、叔母、ジナという従姉、祖父、「天使のように比類ない」家庭医ルシアン・ワリツキイ、侍女などを連れ、ロシアを去って、フランスに暮すようになった。マリアは少女時代を南フランスのニースで育った。当時ロシアの貴族はフランス語を社交語として・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・ ラジオについて宣伝という面が画時代的に重視されているとすれば、聴きての生活から反映する心理的なものの科学的研究などは、第一に真面目にされるべきだろう。聴取料をはらっている家々の数は五百余万戸を超しているが、その何割が欠かさず聴いている・・・ 宮本百合子 「ラジオ時評」
出典:青空文庫