・・・市内のある工廠で一挙に数百人の女工を求めて来たので、市の紹介所は、小紡績工場の操短で帰休している娘たちを八王子辺から集めて、やっとその需要にこたえた状態である。 さらに他方には、東京の巣鴨にある十文字こと子女史が経営している十文字高等女・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・年は二十八九と四十がらみで、一目見ても過去にまとまった学歴も何もなく、或る時代、或る時期の社会的需要に応じて、職業を換えて行く種類の人間らしく見えた。よくある、商売人とも政治屋とも片のつかない一種のタイプなのである。「お上りなさい」・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・ 大衆の初等教育というのは、文盲打破にはじまって、彼等を楽しませながら教育する文学作品に対する活溌な受容力と批判力の養成を含むものではないであろうか。恐らく生れつき彼自身がひどく文学を愛しているに違いないトポーロフは、そこで、農民のため・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 八年制の国民学校を卒業した少年少女たちは、やっぱりそのようにして勤労の生活に入ってゆくのであろうが、その需要に即してみれば、六年を終っただけの子供より働く少年少女としての肉体と精神との能力は、余程高められているわけになるのは明白である・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・作家と読者との関係は単に需要者・供給者の関係ではない肉親的交流において見られたのであった。 再び文学の大衆化が文壇に論ぜられるに当って、大衆の文化的発展の諸要因が無視されると共に、作家との関係では、作品の給与者、被給与者としての面が強調・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・人間社会と自然とは、人間による自然力の最大な受用、制御、生産力への転換としての関係にある。そこで、人間社会の構成が生産手段の進歩、複雑化するにつれて、同じ人間であっても、直接、体でもって自然と組打ち、泥にまびれ、水にぬれ、坑にもぐって働かね・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・或る種の人々はその緊張のために思考する力を喪って、より強烈な需要に自分の生活を吸収されつくしてしまう。経験が歴史の推進にとって重大な価値をもつのは十分な自覚と観察と判断と結論とが種々様々な思考と行動との間からまとめられて来るからであろう。そ・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ だから日本のように非常に短い時間に、非常に沢山のフィルムを、営利会社が有っている映画館の需要を充たすために粗製濫造をする、そういう悲劇は製作者にとってないわけである。それで今までプドフキンでも、エイゼンシュテインでも非常に長い時間かか・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ こういう応急的な思想性の需要と供給との現象が、現在の文化面を忙しく右往左往しているのであるが、日本ではおそらく明治開化の時代にも、日露戦争後の社会問題擡頭期にも、第一次欧州大戦後の社会科学への関心の高まった時代にも、今日見られると同じ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
生産的な場面での女の働きは益々範囲がひろがって来ているし、そこへの需要も急速に高まっているけれども、一応独立した一個の働き手として見られている勤労婦人の毎日の生活の細部についてみれば、それぞれ職場での専門技術上の制約があり・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
出典:青空文庫