・・・持ち前の進取の気風で、君主がローマ綴で日記をつけ、ギヤマン細工を造り、和蘭式大熔鉱炉を築き、日本最初のメリヤス工場を試設したが、その動機には、外国の開化を輸入して我日本を啓蒙しようとする、明かな受用の意志が在る。長崎の人々が南蛮、明の文化に・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・先の親方時代からの縁故で、大工、植木などの職人は勿論、井戸替、溝掃除、細々した人夫の需要も石川一手に注文が集った。纏った建築が年に幾つかある合間を、暇すぎることもなく十五年近く住みついているのであった。 五年前、桜が咲きかける時分石川は・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・しかし、まだ忙しいモスクワ市民の需要と供給の比率は均衡からはるかに遠い。 その一方にこういう事情がある。燕麦の収穫が一九二九年は多くなかった。日本女は、今日び馬を食わせるのに云々という御者の言葉は、だからそれ自身としては十分信じ得る。そ・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・社会の需要もこの頃は女の力を非常に必要としているから、女の働き場所は、ともかく割合にある。だけれども、その働きは、女がより豊富な人間として成長したい心持から求める社会的な勤労の姿では現れず、経済的の点からも自立は不可能なくらいしか報われない・・・ 宮本百合子 「ものわかりよさ」
・・・ 古典的筆致と現代私娼窟の女・情景とを荷風一流のデガ 昭和十二年五月には、農産品六九・二に対して、農村需要品は七五・三までになっている。そして、小作争議は十一年度五千四百九十七件。関係人員五万二千九百五十二人。土地買上に対する小作権・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・就職のくちが割合どっさりあるということは今日の社会の条件からおこった需要で、各方面へ婦人の進出をもたらしているのだけれども、それらの職業についてゆく娘さんたちの内面的な動機にふれてみれば、婦人の技能の拡大のためという建て前からより、職業でも・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
・・・そして明治三十二年つまり日本に女学校令というものが出来た年になって、社会一般が婦人問題について漸く受容れる気風が出来たと認めて、始めて「新女大学」を発表した。「新女大学」の中で、今日もなお注目されるべきことは、著者が、婦人を男子と等しい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・職工の生活の需要であろうか。生活の需要なんぞというものも、高まろうとしている傾はいつまでも止まることはあるまい。そんなら工場の利益の幾分を職工に分けて遣れば好いか。その幾分というものも、極まった度合にはならない。 工場を立てて行くには金・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・さ程深くもなかった交が絶えてから、もう久しくなっているが、僕はあの人の飽くまで穏健な、目前に提供せられる受用を、程好く享受していると云う風の生活を、今でも羨ましく思っている。蔀君は下町の若旦那の中で、最も聡明な一人であったと云って好かろう。・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ この調和は読む人の受用を傷つける。それは時と所との色を帯びている古言が濫用せられたからである。 しかしここにいう所は文と事との不調和である。文自体においてはなお調和を保つことが努められている。これに反して仮りに古言を引き離して今体・・・ 森鴎外 「空車」
出典:青空文庫