・・・ゆえに富貴は貧賤の情実を知り、貧賤は富貴の挙動を目撃し、上下混同、情意相通じ、文化を下流の人に及ぼすべし。その得、四なり。一、文学はその興廃を国政とともにすべきものにあらず。百年以来、仏蘭西にて騒乱しきりに起り、政治しばしば革るといえど・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・畢竟親の方にては格別深き考えもあらず、ただ一時の情意に発したるものなるべし。その第一例なる衣裳を汚したる方は、何ほどか母に面倒を掛けあるいは損害を蒙らしむることあれば、憤怒の情に堪えかねて前後の考えもなく覚えず知らず叱り附くることならん。ま・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・連れの男も上衣のボタン・ホールにリボンでこしらえたレーニンの肖像入りの飾りなどがついている。 小さい鈴蘭の束をさしたのもいる。 前日大群衆に揉みぬかれた都会モスクワと人とは、くたびれながらも、気は軽い。そう云う風だ。 店はしまっ・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ 四十がらみの、ルバーシカの上へ黒い上衣を着た男が立って報告しているところだ。「タワーリシチ! われわれは工場新聞と各職場の壁新聞を動員して、少くとも九百人の文学衝撃隊が集められるだろうと思う。 どんなことがあっても、それより少・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ 強盗が、カラーをとったワイシャツの上に縞背広の上衣だけきて入れられて来たが、留置場は冷淡な空気であった。何もとらずにつかまった。それが強盗としてのその男に対する与太者たちの評価に影響しているのであった。看守だけが、「――つまらんこ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・作家を軍人、官吏、実業家の活動中心と結びついたものとして文化的にも上位にあるものとして考えているのである。何か役人風な見方がここには感じられる。 谷川氏の意見も穏当な態度で表現されてあるけれども、文化の上で従来の作家と大衆とが歩み寄ると・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・評論における「現実認識の直接性が、自己の生身の存在に対して上位にあるかの如き意識を絶えず感じさせられている。批評家は作家たちに対してのみならず自分自身に対しても照れ臭いのである」これもなかなか含蓄のある感情だと思う。この著者が、そのようにし・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・一人、四国の漢学者の浪人アリ。攘夷論の熾なとき故一つ殺してやろう、その前に何というかきいてやれと会った。ニコライ、まだ来たて故日本語下手だが話して居るうちに迚も斬れず。空しくかえる。〔欄外に〕○丁度一八六〇年頃フナロードの始った頃。・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・彼らのこしらえた自由出版協会に参加している戦犯的な出版社はむしろ用紙割当の上位をしめているありさまです。 文学作品との直接のつながりから見ますと、今年の一月ころから三月ころまでの間最初の四半期は、さっきちょっと触れたように、民主主義が初・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・妻の知識はいつも良人のそれよりは低いのが常態であり、常に、良人が上位から注ぐ思い遣り、労わり、一言に云えば人情に縋って生活する状態では、事実に於て、妻も良人も二人の人として肩を並べた心持は知り難いものではないかと危ぶまれます。 妻の要求・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫