・・・殊にこの紀行を見ると毎日西瓜何銭という記事があるのを見てこの記者の西瓜好きなるに驚いたというよりもむしろ西瓜好きなる余自身は三尺の垂涎を禁ずる事が出来なかった。毎日西瓜の切売を食うような楽みは行脚的旅行の一大利得である。 夏時の旅行は余・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・蕪村集中にその例を求むれば鶯の鳴くや小き口あけてあぢきなや椿落ち埋む庭たつみ痩臑の毛に微風あり衣がへ月に対す君に投網の水煙夏川をこす嬉しさよ手に草履鮎くれてよらで過ぎ行く夜半の門夕風や水青鷺の脛を打つ点滴・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・貝殻でこしらえた外套を着て水煙草を片手に持って立っているのでした。「おじさん。もう飢饉は過ぎたの。手伝いって何を手伝うの。」「昆布取りさ。」「ここで昆布がとれるの。」「取れるとも。見ろ。折角やってるじゃないか。」 なるほ・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・精女は水煙をたてて川に飛び込む。小さな泡が二つ葦の根にうく。ペーン オオオ、シリンクス、お前は!しぼる様な細い声で云う。まわりの葦にひびいて夢の歎きの様な好い音を出す。ペーンはそれをジッとききながら、ペーン ・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・サッとたつ水煙。 さわやかな河風に労働者の群像が捧げている数条の赤旗は、小高い丘の上でいきいきとひるがえった。〔一九三一年五月〕 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ チラチラと眩ゆい点描きの風景、魚族のように真黒々な肌一杯に夏を吸いながら、ドブンと飛び込む黒坊――躍る水煙、巨大な黒坊、笑う黒坊、蛙のような黒坊。 卿はどうして其那に水が好きなのか。 如何うして其那に笑うのだろう、卿等は―・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・民衆宮とは日本よりの社会局役人をして垂涎せしむる石造建築と最初建造資金を寄附したミス・某々の良心的満足に向って捧げられている名前である。 門の方へ出て来ると、黒い水着を丸めて手に持った少年が番人に六ペンスはらって入って来た。水浴だ。黄色・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫