・・・ 女を前線に据えるなんざ……そういうなあ……ふむ、女ってものはそういうもんじゃねえんだ。」 ソモフは、出身から云えばボルティーコフと同じ労働者である。彼は、年こそ六十にもなっているが、インガの勤労者としての価値、及び解放された女がどうで・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・経とうが帰さないと脅かされて、放ぽり込んで置かれるのであるが、その学生と自分の金の問題とが妙に連関しているようで、しかも心当りもなく、結局、どこの誰がどう清算しようと、知らない事は知らない事だと、腰を据えるしか仕方がないのであった。 女・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・何か目をそらし何か正面から自身の心とさえ取組もうとしない今日の多数のインテリゲンツィアを、先ず自身の日常の可能の自覚の前にぴったりと引据えること、その任務こそ、ヒューマニズムが生新溌剌とした新文芸思潮として負うている任務の最も重大な一つであ・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ 革命とともに数百万の女が、ソヴェト同盟の新社会の礎を据えるために男と並んで働きだした。八時間労働。同一労働に対しては男女同賃銀。婦人の活溌な社会労働は、完全な母性、幼児保護の設備なしには期待出来ない。産前産後四ヵ月の有給休暇。無料産院・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・ 小説は、最も現実の脂と匂いのきついものであるから、その作者が創作に当って地道に腰を据えれば据えるほど、作者の社会性がむき出しに現われる。プロレタリア文学にあっては、今日の階級的発展段階において一つの重圧ともいい得る他階級の既成文学の影・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・さて二人が夫婦になったところが、るんはひどく夫を好いて、手に据えるように大切にし、七十八歳になる夫の祖母にも、血を分けたものも及ばぬ程やさしくするので、伊織は好い女房を持ったと思って満足した。それで不断の肝癪は全く迹を斂めて、何事をも勘弁す・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫