・・・ だから、早く云って見れば、文学と接触して摩れ摩れになって来るけれども、それが始めは文学に入らないで、先ず社会主義に入って来た。つまり文学趣味に激成されて社会主義になったのだ。で、社会主義ということは、実社会に対する態度をいうのだが、同・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ マダム・ブーキンは若い娘のような身振りで膝の上に擦れた手提袋の紐を引っぱった。「ああ、みんな元のようではないんですものね、それに私のところには小さいものもいますし――」 ジェルテルスキーは、これまで下手にばかり自分の身を置いて・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ いつも夜なかに小用に行く女中は、竹のさらさらと摩れ合う音をこわがったり、花崗石の石燈籠を、白い着物を着た人がしゃがんでいるように見えると云ってこわがったりする。或る時又用を足している間じゅう、四畳半の中で、女の泣いている声がしたので、・・・ 森鴎外 「心中」
・・・と云ったきり、噴き出しそうになったのを我慢するらしい顔をして、女は摩れ違った。 私は筵会の末座に就いた。若い芸者が徳利の尻を摘まんで、私の膳の向うに来た。そして猪口を出した私の顔を見て云った。「面白かったでしょう」 大人か小児に・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫