・・・ 実験室において行う簡単なる実験においてはこれら条件を人為的に支配し制限し得る便あり。しかも最も簡単なるデモンストレーション的実験においてすら、用意の周到ならざるため、条件のただ一つを看過すれば実験の結果は全く予期に反する事あるは吾人の・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・われわれ階級の生活に許される程度のわずかな面積を泉水や植え込みや石燈籠などでわざわざ狭くしてしまって、逍遙の自由を束縛したり、たださえ不足がちな空の光の供給を制限しようとは思わない。樹木ももちろん好きである、美しい草花以上にあらゆる樹木を愛・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ 例えば物理学者があらゆる物体の複雑な運動を観察して、これを求心運動、等加速運動、正弦運動などに分解してその中の一つを抽出し他を捨象する事によって、そこに普遍的な方則を設定する。物理学教科書にある落体運動は日常生活において目撃するあらゆ・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・さて吾々の活力が外界の刺戟に反応する方法は刺戟の複雑である以上固より多趣多様千差万別に違ないが、要するに刺戟の来るたびに吾が活力をなるべく制限節約してできるだけ使うまいとする工夫と、また自ら進んで適意の刺戟を求め能うだけの活力を這裏に消耗し・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・この時、衣服の制限を立るに、何の身分は綿服、何は紬まで、何は羽二重を許すなどと命を出すゆえ、その命令は一藩経済のため歟、衣冠制度のため歟、両様混雑して分明ならず。恰も倹約の幸便に格式りきみをするがごとくにして、綿服の者は常に不平を抱き、到底・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・儚い自分、はかない制限された頭脳で、よくも己惚れて、あんな断言が出来たものだ、と斯う思うと、賤しいとも浅猿しいとも云いようなく腹が立つ。で、ある時小川町を散歩したと思い給え。すると一軒の絵双紙屋の店前で、ひょッと眼に付いたのは、今の雑誌のビ・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・(忙がしげに抽斗を開け、一束の手紙を取り出恋の誓言、恋の悲歎、何もかもこの中に書いてはある。己が少しでもそれを心に感じたのだと思って貰うと大違いだ。(主人は手紙の束を死の足許これが己の恋の生涯だ。誠という物を嘲み笑って、己はただ狂言をして見・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・『万葉』の作者が歌を作るは用語に制限あるにあらず、趣向に定規あるにあらず、あらゆる語を用いて趣向を詠みたるものすなわち『万葉』なり。曙覧が新言語を用い新趣味を詠じ毫も古格旧例に拘泥せざりしは、なかなかに『万葉』の精神を得たるものにして、『古・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・元来墓地には制限を置かねばならぬというのが我輩の持論だが、今日のように人口が繁殖して来る際に墓地の如き不生産的地所が殖えるというのは厄介極まる話だ。何も墓地を広くしないからッて死者に対する礼を欠くという訳はない。華族が一人死ぬると長屋の十軒・・・ 正岡子規 「墓」
・・・ 本誌の、この号には食糧問題、労働問題、法律上の諸問題、生活再建の市民的技術上の問題、再婚問題、産児制限の諸問題が、特輯として扱われている。 これらの題目のうちで、過去二十年間、日本の婦人雑誌が扱ったことのないというトピックが、只の・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
出典:青空文庫