・・・アレキサンダア二世が欺瞞的な農奴解放を行い、ゴーリキイが生れた時分、もう農奴制そのものは廃止されていたけれども、二百五十年にわたったロシアの農奴制によってしみこんだ封建制は、家庭の内に信じられない父の専制、主人と雇人との間の専制主義となって・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・そして、その感情生活も性格から来る不羈奔放さとともに、専制的な君主らしく一人よがりで気ままであったこと、伝説化されている淀君のような存在もあり、一方には千利休の娘に対する醜聞なども伝えられている。 当時の社会では、征服した者が権力を以て・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・民主の社会という場合には、少くとも人権が確立し婦人の社会的地位の差別がとりのぞかれ、人種偏見から解放され、言論、出版、政治活動の自由のある社会を意味している。専制と封建の権力、習慣がとりのぞかれた社会、或は、それらの過去の鎖をすてようとする・・・ 宮本百合子 「われらの小さな“婦人民主”」
・・・いつでも「木村先生一派の風俗壊乱」という詞が使ってある。中にも西洋の誰やらの脚本をある劇場で興行するのに、木村の訳本を使った時にこのお極りの悪口が書いてあった。それがどんな脚本かと云うと、censure の可笑しい程厳しいウィインやベルリン・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・「先生、私の足、こんなに膨れて来て、どうしたんでございましょう。」「いや、それは何んでもありません。御心配なさいますな。何んでもありませんから。」と医師は誤魔化した。 ――水が足に廻り出したのだ。 ――もう、駄目だ。と彼は思・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・夏目先生はカラマゾフ兄弟のある点をディクンスに比して非難された。その時私は承服し兼ねたが、しかし考えてみると私はディクンスの本体を知らない。それにドストイェフスキイには浪漫派らしい弱点がある。恐らく夏目先生の非難は当たっているのだろう。・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫