・・・ 次の日一郎はあのおかしな子供が、きょうからほんとうに学校へ来て本を読んだりするかどうか早く見たいような気がして、いつもより早く嘉助をさそいました。ところが嘉助のほうは一郎よりもっとそう考えていたと見えて、とうにごはんもたべ、ふろし・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・「おう、うまい、うまい、そいづさい取ってしめば、あどは何っても怖っかなぐない。」「きっともて、こいづあ大きな蝸牛の旱からびだのだな。」「さあ、いいが、おれ歌うだうはんてみんな廻れ。」 その鹿はみんなのなかにはいってうたいだし・・・ 宮沢賢治 「鹿踊りのはじまり」
・・・(そいじゃ頂(はっは、なあに、こごらのご馳走(地質です。もうからない仕事餅を噛み切って呑み下してまた云った。(化石化石も嘉吉は知っていた。(ええ海百合です。外でもとりました。この岩はまだ上流にも二、三ヶ所学生は何でももう早く餅をげろ呑みにし・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・ところが部長と喧嘩してね、そいつをぶんなぐってやめてしまったんだ。商売をやるたって金もないしね、やっとその顕微鏡を友だちから借りてこの商売をはじめたんだ。同情してくれ給え。」ペンキ屋「だって、そんな先月まで交通整理だかやっていて俄かに医・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・「ぼくはもう戻ろうとおもう。」「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は空いてきたし戻ろうとおもう。」「そいじゃ、これで切りあげよう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買って帰ればいい。」「兎もでていたねえ。そうすれば結・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・「ああ、そうですか、そいじゃ私のほうがやっぱり詳しく知ってます。この間まで馬喰をやってましたがね。今ごろは何をしているか全く困ったもんですよ。」「どうして馬喰をやめたでしょう。」「だめでさあ、わっしもずいぶん目をかけました。でも・・・ 宮沢賢治 「バキチの仕事」
・・・「そいじゃ豚を縛って呉れ。」助手はマニラロープを持って、囲いの中に飛び込んだ。豚はばたばた暴れたがとうとう囲いの隅にある、二つの鉄の環に右側の、足を二本共縛られた。「よろしい、それではこの端を、咽喉へ入れてやって呉れ。」畜産の教師は・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・「いのししむしゃのかぶとむしつきのあかりもつめくさのともすあかりも眼に入らずめくらめっぽに飛んで来て山猫馬丁につきあたりあわててひょろひょろ落ちるをやっとふみとまりいそいでかぶとをしめなおし月のあかりも・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・「そいじゃきつねが人をだますなんて偽かしら。」 紺三郎が熱心に云いました。「偽ですとも。けだし最もひどい偽です。だまされたという人は大抵お酒に酔ったり、臆病でくるくるしたりした人です。面白いですよ。甚兵衛さんがこの前、月夜の晩私・・・ 宮沢賢治 「雪渡り」
・・・どこの海浜にでも、そこが少し有名な場所なら必ずつきものの、船頭の古手が別荘番の傍部屋貸をする、その一つであった。 従妹のふき子がその年は身体を損ね、冬じゅう鎌倉住居であった。二月の或る日、陽子は弟と見舞旁遊びに行った。停車場を出たばかり・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
出典:青空文庫