・・・ 大洪水は別として、排水の装置が実際に適しておるならば、一日や二日の雨の為に、この町中へ水を湛うるような事は無いのである。人事僅かに至らぬところあるが為に、幾百千の人が、一通りならぬ苦しみをすることを思うと、かくのごとき実務的の仕事に、・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・それらの内部には、独立した子供部屋があり、またどの室にも暖房装置は行き届いているであろう。そこに生まれ育った子供と、あの貧しい家に病んでねている子供とどこに、かわいらしい子供ということに変わりがあろうか。しかし、その境遇はこうも異なっている・・・ 小川未明 「三月の空の下」
・・・舞台装置もする。映画の仕事もする。評論も書く。翻訳も試みる。その片手間に随分多量の小説も発表するが、べつだん通俗にも陥らず、仕事のキメも存外荒くはない。まずはあっと息をのむような鮮かな仕事振りである。聴けば、健康診断のたびに医者は当分の静養・・・ 織田作之助 「道」
・・・家を捜すのにほっとすると、実験装置の器具を注文に本郷へ出、大槻の下宿へ寄った。中学校も高等学校も大学も一緒だったが、その友人は文科にいた。携わっている方面も異い、気質も異っていたが、彼らは昔から親しく往来し互いの生活に干渉し合っていた。こと・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・私がその中に混ってやや温まった頃その装置がビビビビビビと働きはじめました。「おい動力来たね」と一人の若い衆が云いました。「動力じゃねえよ」ともう一人が答えました。 湯を出た私はその女の児の近くへ座を持ってゆきました。そして身体を・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ だが、その時、銃を取った大西上等兵と浜田一等兵は、安全装置を戻すと、直ちに、×××××××××をねらって引鉄を引いた。 黒島伝治 「前哨」
・・・安全装置を直すのを忘れていたのだ。「どうした、どうした?」 ピストルに吃驚した竹内が歩哨小屋から靴をゴト/\云わして走せて来た。 栗本は黙って安全装置を戻し、銃をかまえた。橇は滑桁の軋音を残して闇にまぎれこんだ。馬の尻をしぶく鞭・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・熊さんが、どこへ持って行っても相手にしない、山根の、松林のかげで日当りの悪い痩地を、うまげにすゝめてくると、また、口車にのって、そんな土地まで、買ってしまった。その点、ぼれていても、おふくろの方がまだ利巧だった。「そんな、やちもない畠や・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・家は数十丈の絶壁にいと危くも桟づくりに装置いて、旅客が欄により深きに臨みて賞覧を縦にせんを待つものの如し。こはおもしろしと走り寄りて見下せば、川は開きたる扇の二ツの親骨のように右より来りて折れて左に去り、我が立つところの真下の川原は、扇の蟹・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・一ト通りの沈子釣の装置の仕方ぐらいは知っているのであったが、沈子のなかったために浮子釣をしていたのであったことが知られた。 少年の用いていた餌はけだし自分で掘取ったらしい蚯蚓であったから、聊かその不利なことが気の毒に感じられた。で、自分・・・ 幸田露伴 「蘆声」
出典:青空文庫