・・・ですから、さっき一番始めに申しましたように安倍源基が市民生活の中へまぎれ込んで来るとか、にせ気違いかなんか知りませんが、東條の頭を叩いて松沢に行っていたファシズムのイデオローグである大川周明が全治したとかいうとき私どもははっきりとファシズム・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・ところが当時大船のステーションの汽車の中にい、やっと倒れそうな体を足で踏張り支えていた私の弟は、確に十二時十五分過頃始ったと云う。鎌倉から来た人々もその刻限に一致した。其故、私の見た時計に大した狂いのなかったことを信ずるなら、東京に近く、震・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
一 ナポレオン・ボナパルトの腹は、チュイレリーの観台の上で、折からの虹と対戦するかのように張り合っていた。その剛壮な腹の頂点では、コルシカ産の瑪瑙の釦が巴里の半景を歪ませながら、幽かに妃の指紋のために曇っていた。 ネー将軍は・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫