・・・を凌ぐリアリスト芸術家とされていることは、一連の人々にとって、さながら彼等自身が、今日このように自明な歴史的段階を否定し無視し、文学から階級性を追放しようと欲する心持までを、エンゲルスの卓見によって庇護され得るかのような幻想を抱かせたのであ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 特に日本は若く而も早老な社会機構によって、ジャーナリズム内の理想主義と実利主義との紛糾は、呼吸荒い時代に揉まれて様々な内容がその日暮しに陥り達見を失う危険をもっていないとは云えない。 先頃、二晩つづいて東京に提灯行列のあった一夜、・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
・・・一同にそこそこに挨拶をして、室町の達見という宿屋にはいった。 隊から来ている従卒に手伝って貰って、石田はさっそく正装に着更えて司令部へ出た。その頃は申告の為方なんぞは極まっていなかったが、廉あって上官に謁する時というので、着任の挨拶は正・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫