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・・・「おい、頼む頼む。お母に一寸云うてくれったら。」 秋三はそのまま黙って柴を担ごうとすると、「お前とこ、俺とこの母屋やないか、頼むで置かしてくれよ。」と安次は云った。「俺とこが母屋や?」「そうとも、誰なと聞いてみい。」・・・
横光利一
「南北」
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・・・信玄の遺言といわれるものは、勝頼に対して、おれの死後謙信と和睦せよ、和睦ができたらば、謙信に対して頼むと一言言え、謙信はそう言ってよい人物であると教えている。真偽はとにかく、信玄はそういう人物と考えられていたのである。 慶長の末ごろ・・・
和辻哲郎
「埋もれた日本」