・・・もうこれからは北さんにたよらず、私が直接、兄たちと話合わなければならぬのだ、と思ったら、うれしさよりも恐怖を感じた。きっとまた、へまな不作法などを演じて、兄たちを怒らせるのではあるまいかという卑屈な不安で一ぱいだった。 家の中は、見舞い・・・ 太宰治 「故郷」
・・・国際文化振興会なぞをたよらずに異国へわれらの芸術をわれらの手で知らせてやろう。資金として馬場が二百円、私が百円、そのうえほかの仲間たちから二百円ほど出させる予定である。仲間、――馬場が彼の親類筋にあたる佐竹六郎という東京美術学校の生徒をまず・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・それだけのお金や品物が残っていたら、なに、あとはその人の創意工夫で、なんとかやって行けるものだ、田舎のお百姓さんたちにたよらず、立派に自力で更生の道を切りひらいて行くべきだと思う。とこうまあ謂わば正論を以て一矢報いてやったのですね、そうする・・・ 太宰治 「やんぬる哉」
・・・ 家中のものからたよられて居る身であるのを思えば、自分の男だと云う名に対しても斯うしては居られない気になった。 けれ共、勿論働く方法も見つからなかった。栄蔵は、一思いに、体の半分が無くなった方がどれほど楽か分らないと思うほど、刻一刻・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・理解はあるが、地につき Matter of Fact な、自分の生活を支配されない人が、動揺し、まどい、当を求める者にたよられる。 赤江米子氏/母の或部分思いがけずとまって気の毒だったこと――自分はこの頃、女中とだけ居る淋しさつまらなさ・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・だからそういう人間はおやじにたよらずに、また子供にたよらずに暮せる。 だけれども好きな同士だから夫婦になって一緒に暮す。子供はおやじや母と一緒に暮した方が幸福だから一緒にいる。だから外の国でのように家庭を城にして、それで浮世の荒波を防ぐ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ 従って謙吉さんのつよく大きい人柄は誇張されて一家のものから評価され、たよられていたと思われる。そういう実家のごたごたの度に、母は、謙吉さんがいてくれさえしたら、と涙をこぼした。気がちがった謙吉さんのいる家は、それからのち、田端の汽車を・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・経済的能力もないし、はっきりした職業の上の立場もないし、友達にたよられれば共にゆらつく生存の足場しかもたなかった。女子の専門学校や大学の学校仲間というものも、これまでのように、親の資力の大さでそこの生活が保障されて来た娘たちの集り場所であっ・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・ところが最近の植物の分類の方法は進歩して来て、只そうやって肉眼で見える形の上での類似などばかりにたよらず、もっとその植物の生存の本質的な点、例えば或る葉が一定の光の下でその葉緑素にどんな変化をおこすかという点にふれて観察して、その有機作用の・・・ 宮本百合子 「リアルな方法とは」
出典:青空文庫