・・・「私は運転手を五、六年した経験で、あの電車は当時の状況からみて、『一たん停止』の辺で脱線すると信じ、本線その他に危害がおこるとは考えていませんでした。」この面会で、竹内被告は一人の労働者として、また妻の心を思いやり、五人の子供たちの将来を考・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・既に一九二七年、右翼的固執を示した労芸の内部の情勢が三年間停止している筈はない。前田河が発表するプロレタリアート文学に対する感想は、モスクワで読むからばかりでない、どこの工場の隅で読んだって明かな悲しき反動にまで発育していた。其イディオロギ・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・ 「天上から地上へのぼるために無残にもおれた梯子である」芥川 敗北の文学 「小ブルジョアジイの諸属性の中で「自我に関する思索」こそが基本的な一線であることを知るのである。」p.16 しかし、小ブルジョアジー・・・ 宮本百合子 「「敗北の文学」について」
・・・獄中生活で健康を害し執行停止され、現在は作家の活動をされている。島木氏が四国の方で農民組合の活動をしていたことは恐らく今日では周知の事実であろう。作家島木氏として現れたのは出獄後のことである。その他多くの人々がそれぞれの道の違いはあっても、・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・京都妙心寺出身の大淵和尚の弟子になって宗玄といっている。三男松之助は細川家に旧縁のある長岡氏に養われている。四男勝千代は家臣南条大膳の養子になっている。女子は二人ある。長女藤姫は松平周防守忠弘の奥方になっている。二女竹姫はのちに有吉頼母英長・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ お松は夜着の中から滑り出て、鬆んだ細帯を締め直しながら、梯子段の方へ歩き出した。二階の上がり口は長方形の間の、お松やお金の寝ている方角と反対の方角に附いているので、二列に頭を衝き合せて寝ている大勢の間を、お松は通って行かなくてはならな・・・ 森鴎外 「心中」
・・・そして女中の跡に附いて、平山と並んで梯子を登った。 二階は西洋まがいの構造になっていて、小さい部屋が幾つも並んでいる。大勢の客を留める計画をして建てた家と見える。廊下には暗い電燈が附いている。女中が平山に、「あなたはこちらで」と一つの戸・・・ 森鴎外 「鼠坂」
どこかで計画しているだろうと思うようなこと、想像で計り知られるようなこと、実際これはこうなる、あれはああなると思うような何んでもない、簡単なことが渦巻き返して来ると、ルーレットの盤の停止点を見詰めるように、停るまでは動きが・・・ 横光利一 「鵜飼」
一 丘の先端の花の中で、透明な日光室が輝いていた。バルコオンの梯子は白い脊骨のように突き出ていた。彼は海から登る坂道を肺療院の方へ帰って来た。彼はこうして時々妻の傍から離れると外を歩き、また、妻の顔を新・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・と云ったりしたが、氾濫しつつ彼の頭に襲いかかって来る数式の運動に停止を与えることが出来ないなら、栖方の頭も狂わざるを得ないであろうと梶は思った。 正確だから狂うのだ、という逆説は、彼にはたしかに通用する近代の見事な美しさをも語っている。・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫