・・・残った綴字はいくつあるかL、F、H、LFH……ああ 私はH、H! 何と云う暗合内心に深く沈み込んだ私の批難が此処に現れ出ようとは。貴方に対する無言の厭悪が稚いこの遊戯の面に現れ出るとは!L、F、H、LFH、・・・ 宮本百合子 「海辺小曲(一九二三年二月――)」
・・・ 精密な、そして情愛にみちた一つの仕事がここに提示されていると思う。これは、とくにこの戦争以来、私たちの精神をいためつづけてきた暴力によってつくられた、われわれの内部的な抗議の自意識へ固執する癖、という複雑な社会史的コムプレックスをとり・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ だけれども、社会と文学との諸問題について、「同時代に対する少しぐらいの盲点をおかしても、むしろ現代の論理を把握する技術として、創造への道を提示する」批評があってよいし、なくてはならないのは、事実ではないだろうか。「現代において、現代の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・出るといきなり、「あなた丁字の花御存じ?」と云った。「丁字? 沈丁とは違うの」「見て下さい、これ今お友達から送って下すったの。余りいい香いで嬉しくなったから一寸あなたにも香わせて上げようと思って」 千鶴子は手にもっている・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・『文学建設』を中心とする活動家は、座談会の記事を見てもあきらかであるとおり、もっとも文学的技術の獲得に努力をはらいつつある人々であり、おのずからそこに問題を提示するであろうと、期待される。『婦人文芸』が新年号から一つの特色として世界・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ 最近の三四年の生活を顧ると様々の転形に於てその問いは激しく人々の心に在って、而もそれに対する答えは、形の上で矢つぎ早に提示されつつ、しんのところではいかにも尻切とんぼに終って来ている気がする。そのために、近頃では益々、文学とは何であろ・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・運動そのものに具体的でひろくつよい動きをもたせ、それぞれの人にゆたかな可能を提示し、こせつかないで実力のためられる気分をつくり出したら、どんなにうれしいだろう。文学を愛するものは、人民の正義に光と美とを求めているのだ。〔一九四九年六月〕・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ ところで、一九四五年八月以後、民主主義化が日本の課題として提示されるようになった。半ば封建の闇からぬけ出ていて、しかも、封建的重圧のために脚をとられていることを最も痛切に自覚している筈のインテリゲンツィアの層こそ、雀躍して、自分の踝の・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・日本文学の歴史において一つの画期を示したこの自我の転落は、当事者たちの主観から、未来を語る率直悲痛な堕落としては示されず、何か世紀の偉観の彗星ででもあるかのような粉飾と擬装の下に提示され、そこから、文学的随筆的批評というようなものも生じた次・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
出典:青空文庫