・・・ そう言いながら、男はどぶんと浸ったが、いきなりでかい声で、「あ、こら水みたいや。無茶しよる。水風呂やがな。こんなとこイはいって寒雀みたいに行水してたら、風邪ひいてしまうわ」そして私の方へ「あんた、よう辛抱したはりまんな。えらい人や・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・ 登勢は何かの拍子にそのことを坂本に話し、色の黒いひとは気がええのんどっしゃろかと言うと、俺も黒いぞと坂本は無邪気なもので、誰にも言うてもらっては困るが、俺は背中にでかいアザがあって毛が生えているので、誰の前でも肌を見せたことがない。登・・・ 織田作之助 「螢」
・・・岡釣をしていて、変な処にしゃがみ込んで釣っていて、でかい魚を引かけた途端に中気が出る、転げ込んでしまえばそれまででしょうネ。だから中気の出そうな人には平場でない処の岡釣はいけねえと昔から言いまさあ。勿論どんなところだって中気にいいことはあり・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・俺は此処へ来てから、そのことを、小さい妹の仮名交りの、でかい揃わない字の手紙で読んだ。俺はそれを読んでから、長い間声をたてずに泣いていた。 俺には、身体の小さい母親が、ちょこなんと坐って、帯の間に手をさしはさんでいる姿が目に見える。それ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・ひとりでかい?」「あら、いやだ。男なんて、おかしくって。」「そこを見込んで、頼みがあるんだ。一時間、いや、三十分でいい、顔を貸してくれ。」「いい話?」「君に損はかけない。」 二人ならんで歩いていると、すれ違うひとの十人の・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・「人の笑い声、太い声でかい。」「いいや。」「そうかねえ。」 わたくしはまたわからなくなって腕を組んで立ちあがってしまいました。 そのときでした。野原のずうっと西北の方で、ぼお、とたしかにトローンボーンかバスの音がきこえま・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・それらの間に、レーニンは、あのでかい丸い頭のなかできっちり組織的な線をひっぱっていたことを、日本女は感じた。「いや、ここばかりではない」日本女はそう思った。地球をぐるりと一まわりして、今は組織のつよい一本の線がある。プロレタリアートがヨ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 智識階級の二十―三十代 リーベ すきな人 倉知の俊が農園でつかう ヤ、こいつはデカ・メロンだ、でかいメロンだ。 ○ケイオーの学生「あいつ赤電のくせに悠々し・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・「サ、百合ちゃんおぼえておいでかい、もう忘れてしまったんだろうけれど、この方が御まきさん、あなたは――御仙さんて御っしゃいましたっけか?」 娘さんにきくと合点をしたんで、「ほんとうにうちのは御てんで困るんですよ、何も出来ないくせ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・武士の妻はかほどのうてはと仰せられてもこの身にはいかでかいかでか。新田の君は足利に計られて矢口とやらんで殺されてその手の者は一人も残らず……ああ胸ぐるしい浮評じゃわ。三郎の刀禰は、そうよ、父上もそこを逃れなされたか。門出の時この匕首をこの身・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫