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・・・あわれ、そのかぐわしき才色を今に語り継がれているサフォこそ、この男のもやもやした胸をときめかす唯一の女性であったのである。 男は、サフォに就いての一二冊の書物をひらき、つぎのようなことがらを知らされた。 けれどもサフォは美人でなかっ・・・
太宰治
「葉」
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・・・ そのころには私も或る無学な田舎女と結婚していたし、いまさら汐田のその出来事に胸をときめかすような、そんな若やいだ気持を次第にうしないかけていた矢先であったから、汐田のだしぬけな来訪に幾分まごつきはしたが、彼のその訪問の底意を見抜く事を・・・
太宰治
「列車」