・・・の住人どもに与えられているのは、ブルジョア国家がその税で富むところの火酒と教会と無智であった。。そしてもちろん、ブルジョアが美しい馬にひかせた橇で雪をけたててやって来る劇場へは、入るどころではなかった。 十月の革命は、ロシアの支配者をブ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・資本主義の社会そのものが、社会に貧富の差を生み出し、働く人々の階級と働かせて無為に富む階級とをつくり出した。しかもその社会の本質は、自力でその矛盾を解決する力を失っているから恋愛、結婚における貞潔の社会的根拠というものも保証しかねているので・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・ したが分にかって富む人の情ない持前で貧しいものにようめぐみもせいで只宝の数の増して行くのばかりをたのしんで居りまいた。 或日一人の美くしい乙女が一つの小石を持って参って春は紫に夏はみどりに秋は黄金色に冬が参れば銀色に輝くと申しのこ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・というバルザックの実践的な結論と、彼が法律や権力の偽善をあばき、それが富者のより富むための道具に過ぎぬことを実に彼独特の巨大な熱情と雄弁とで曝露した事実とは一見矛盾するが如くであって、而も彼にあっては些の撞着もなかった。何故ならば、オノレ・・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・きわめて柔軟で同情に富む天質をもって生れ、従ってその時代の人間性を強調する息吹きにも感じ易かったシドニー・ハーバートは、フロレンスの指揮と指導の性質にひきよせられ、公共の目的のためには全く献身的な独特な友情を保った。そのほか、このグループの・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ これらの遺憾な諸点にかかわらず、この一篇は、有益でもあり、示唆に富む作品である。翻訳も流暢と云えないまでも、忠実にされていることがわかる。「支那ランプの石油」その他この作者の作品を読んで見たいと思わせる作品である。 注意をひかれる・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
・・・我は彼に求むる所がなく、彼もまた我に求むる所がない。縦いまた樗牛と予との如く、ある関係が有っても、それは言うに足らぬ事であって、今これを人に告ぐる必要を見ない。かように今の文壇の思想の圏外に予は立っていて、予の思想の圏外に今の文壇は立ってい・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・時代は啻に一つの大議論家を出したのみではなくて、ほとんど無数の大議論家を出して止む時がない。即ち新文学士の諸先生がそれである。試みに帝大文学の初の数十冊を始として、同時に出た博文館の太陽以下の諸雑誌、東京の諸新聞を見たならば、鴎外と云う名に・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・という喧しい宣言のあとで、神を求むる心は忍びやかに人々の胸に育って行く。 キリストの復活を認容することのできなかった物質論は今や人類の常識である。神が七日にして世界を創造したという物語のごときは「物語」以上に何の権威をも持たない。処女懐・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫