・・・という小説の中などでは、予言者として怒号の表情だけ誇張して扱われているサヴォナロラの殉教の意味も、当時の進歩とその不徹底の両面を象徴するものとして、この本では明瞭な歴史的判断におかれている。レオナルド・ダ・ヴィンチの生きかたさえ、この本の中・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・Y氏の愛する木食上人の木像は、ああいう家に住む土豪にあって彫まれたものではなかったのですからね。 SUが新交響楽団のキカン誌『フィルハーモニー』の編輯の仕事に入りたい希望でいることは、この前の手紙で申しあげましたね。今月の二十日頃採否が・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・押されて、彼方に一団此方に一団とかたまった電光を含む叢雲が、揺れ動き崩れかかる、その隙間にちらり、ちらりヴィンダーブラの大三叉を握った姿、ミーダの鞭を振る姿、カラがおどろにふり乱した髪を吹きなびかせて怒号する姿、黒い影絵のように見える。声が・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・のである。 中国の歴史がうつりかわるにつれて揚子江沿岸の軍閥が擡頭して、白人の事業を破滅に導き、それがやがて辛じて老父の屍を葬る二代目イーベンをせき立てて宜昌から遁走させる「偉大なスローガン」の怒号と高まって来るまで、作者は身についてい・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
・・・――またたとえば一人の青年が二人の老人を前に置いて、眼を光らせ、口のあたりの筋肉を痙攣させながら怒号する。老人はおどおどしている。青年は自分の声のききめを測量しながら、怒りの表情の抑揚のつけ方をちょっと思案してみる。――これも自然である。声・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫