・・・あんな荷物をどっさり持って、毎日毎日引越して歩かなくちゃならないとなったら、それこそ苦痛じゃないか。A 飯のたんびに外に出なくちゃならないというのと同じだ。B 飯を食いに行くには荷物はない。身体だけで済むよ。食いたいなあと思った時、・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・ ところが、困ったことには、おかみさんが重いかぜにかかって、どっさり床についたのです。貧乏で、医者にかけるどころか、あたたかなおいしいものをたべさせることもできません。頼むところはなし、どうすることもできなく、猟師は自分のだいじな鉄砲を・・・ 小川未明 「猟師と薬屋の話」
・・・「肉をどっさりやりましたら、とおしてくれました。」とウイリイは答えました。「それでは私の大男のいるところはどうしてとおりぬけたのです。」と王女は聞きました。「パンをどっさりやりました。」「毒蛇と竜の前は?」「みんなが寝て・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・女たちで、すはだしのまま、つかれ青ざめてよろよろと歩いていくのがどっさりいました。手車や荷馬車に負傷者をつんでとおるのもあり、たずね人だれだれと名前をかいた旗を立てて、ゆくえの分らない人をさがしまわる人たちもあります。そのごたごたした中を、・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ 王子は大よろこびで、お金入れへお金をどっさり入れて、それから、よく切れるりっぱな剣をつるすが早いか、お供もつれないで、大勇みに勇んで出かけました。 二 王子は遠い遠い長い道をどんどん急いでいきました。 ・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・と、肉屋は最後に、出来るだけわるいところをどっさり切ってなげつけました。しかし、犬はもうそのしまいの一きれだけは食べようともしずに、しばらくそれをじろじろ見つめています。「何だ。何を考えてるんだい。」と肉屋は思いました。そのうちに、犬は・・・ 鈴木三重吉 「やどなし犬」
・・・い小さい家を借りまして、一度の遊興費が、せいぜい一円か二円の客を相手の、心細い飲食店を開業いたしまして、それでもまあ夫婦がぜいたくもせず、地道に働いて来たつもりで、そのおかげか焼酎やらジンやらを、割にどっさり仕入れて置く事が出来まして、その・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・お金も今月はどっさり余分にございます。あなたのお疲れのお顔を見ると、私までなんだか苦しくなります。この頃、私にも少しずつ、芸術家の辛苦というものが、わかりかけてまいりました。と、そんなことをぬかすので、おれも、ははあ、これは何かあるな、と感・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・のおそろしく高いカラスミを買わされ、しかも、キヌ子は惜しげも無くその一ハラのカラスミを全部、あっと思うまもなくざくざく切ってしまって汚いドンブリに山盛りにして、それに代用味の素をどっさり振りかけ、「召し上れ。味の素は、サーヴィスよ。気に・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ついに貴重な紙を、どっさり汚して印刷され、私の愚作は天が下かくれも無きものとして店頭にさらされる。批評家は之を読んで嘲笑し、読者は呆れる。愚作家その襤褸の上に、更に一篇の醜作を附加し得た、というわけである。へまより出でて、へまに入るとは、ま・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫