・・・ 女中を呼んで男が「おい勘定」と云った。「おかえりでございますか」「ああ」 どやどやと出て来る。丁度こちらの室へ女中が茶を運んで来たところで唐紙が開いて居た。鼻まで襟巻でくるんだ男が無遠慮にそこから内を覗きそうにした・・・ 宮本百合子 「町の展望」
・・・同僚はもうとっくに書類を片附けていて、どやどや退出する。木村は給仕とただ二人になって、ゆっくり書類を戸棚にしまって、食堂へ行って、ゆっくり弁当を食って、それから汗臭い満員の電車に乗った。・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ 折から門にはどやどやと人の音。「忍藻御は熊に食われてよ」 ―――――――――――――― ついでながらこのころ神田明神は芝崎村といッた村にあッてその村は今の駿河台の東の降口の辺であッた。それゆえ二人の武士・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫