・・・ すると森の奥から、まっくろな手の長い大きな大きな男が出て来て、まるでさけるような声で云いました。「何だと。おれをぬすとだと。そう云うやつは、みんなたたき潰してやるぞ。ぜんたい何の証拠があるんだ。」「証人がある。証人がある。」と・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
宮本顕治には、これまで四冊の文芸評論集がある。『レーニン主義文学闘争への道』『文芸評論』『敗北の文学』『人民の文学』。治安維持法と戦争との長い年月の間はじめの二冊の文芸評論集は発禁になっていた。著者が十二年間の獄中生活から・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・や、永井隆の「ロザリオの鎖」「長崎の鐘」などがさき頃のベスト・セラーズでした。日配の統計の純文学では「細雪」が第一位です。わたしたちはここでもやっぱり客観的でなくてはいけないと思います。前に、日本の新しいファシズムの一つの現れとして、ルポル・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・日本資本主義高揚期であった明治末及び大正時代に活動しはじめた永井荷風、志賀直哉、芥川龍之介、菊池寛、谷崎潤一郎その他の作家たちは、丁度それぞれの段階での活動期を終ったときだった。これらの作家たちは無産階級運動とその芸術運動の擡頭しはじめた日・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・何故なら、作家野上彌生子の年齢的同時代としては、谷崎潤一郎だの平塚らいてうだの、僅六歳の年長者として永井荷風等があり、それらの人々の生活内容と作品とは、あなたとは全く別様のものです。あなたのように若いジェネレーションの息吹きがその作品の内に・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・政治と文化とを一貫して、世相を押しきったこのような潮流は、一九四九年度の毎日文化賞の準備調査、読売新聞社の良書ベスト・テンの調査などで、諸々批判のおこっている永井ものがトップをしめ、「宮本武蔵」や「親鸞」「風とともに去りぬ」「細雪」「流れる・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・参議院の考査委員会は、永井隆氏を表彰しようという案を発表したが、六月十二日、七月三日の週刊朝日は、カソリック教徒であるこのひとの四つの著書が、それぞれにちがった筆者であるというようにいっている。 記録文学のあるものは、クラブチェンコの「・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・私たちの目の前にある近代古典と云うべき作品の多くはこれらの時期に書かれたものであるし、古典的な権威として今日或る意味で価値ある文学上の存在をつづけている作家たち、例えば島崎藤村、徳田秋声、谷崎潤一郎、永井荷風、志賀直哉、武者小路実篤等は、い・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・谷崎潤一郎、永井荷風、佐藤春夫等の作家は彼等の古典文学の教養を土台として例えば「盲目物語」「春琴抄」「つゆのあとさき」等の作品を示し、文芸復興はさながらブルジョア老大家の復興であるかの如き外観を呈した。当時にあっては、佐藤春夫は芸術の技法の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・後篇を中央公論に連載しつつあった。永井荷風は往年の花柳小説を女給生活の描写にうつした「ひかげの花」をもって、谷崎潤一郎は「春琴抄」を、徳田秋声、上司小剣等の作家も久しぶりにそれぞれその人らしい作品を示した。そして当時「ひかげの花」に対して与・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫