・・・「今日という今日は、承知せんぞ!」「何にッ!」 二人は羽がい締めにされた闘鶏のように、また人々の腕の中で怒り立った。「放してくれ、此奴逝わさにゃ、腹の虫が納るかい。」「泣きやがるな!」「何にッ!」 秋三は人々を振・・・ 横光利一 「南北」
・・・おしまいには私も子供といっしょに大声をあげて泣きたくなりました。――何というばかな無慈悲な父親でしょう。子供の不機嫌は自分が原因をなしていたのです。子供の正直な心は無心に父親の態度を非難していたのです。大きい愛について考えていた父親は、この・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・実に人間的に率直に悲しんでいられる。亡きわが児が可愛いのは何の理由もない、ただわけもなく可愛い。甘いものは甘い、辛いものは辛いというと同じように可愛い。ここまで育てて置いて亡くしたのは惜しかろうと言って同情してくれる人もあるが、そんな意味で・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫