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・・・ 塩どころじゃない、百日紅の樹を前にした、社務所と別な住居から、よちよち、臀を横に振って、肥った色白な大円髷が、夢中で駈けて来て、一子の水垢離を留めようとして、身を楯に逸るのを、仰向けに、ドンと蹴倒いて、「汚れものが、退りおれ。――・・・
泉鏡花
「茸の舞姫」
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・・・彼らは私の読んでいる本へ纒わりついて、私のはぐる頁のためにいつも身体を挾み込まれた。それほど彼らは逃げ足が遅い。逃げ足が遅いだけならまだしも、わずかな紙の重みの下で、あたかも梁に押えられたように、仰向けになったりして藻掻かなければならないの・・・
梶井基次郎
「冬の蠅」