・・・日本人が書いたのでは、七十八日遊記、支那文明記、支那漫遊記、支那仏教遺物、支那風俗、支那人気質、燕山楚水、蘇浙小観、北清見聞録、長江十年、観光紀游、征塵録、満洲、巴蜀、湖南、漢口、支那風韻記、支那――編輯者 それをみんな読んだのですか?・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・彼等は豚小屋に封印をつけて、豚を柵から出して、百姓が勝手に売買することを許さなくするためにやって来たのである。 百姓達は、それに対して若者が知らして帰ると共に、一勢に豚を小屋から野に放つことに申合せていた。 健二は、慌てゝ柵を外して・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・で貸借の争議を示談させるために借り方の男の両手の小指をくくり合せて封印し、貸し方の男には常住坐臥不断に片手に十露盤を持つべしと命じて迷惑させるのも心理的である。エチオピアで同様の場合に貸し方と借り方二人の片脚を足枷で縛り合せて不自由させると・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・そうして、それを封印をして本国大学に送ってもらいたいというようなことを厳粛な口調で話していた。 領事のほうからは、本国の家族から事後の処置に関する返電の来るまで遺骸をどこかに保管してもらいたいという話があって、結局M教授の計らいでM大学・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・長谷川君の書に一種の風韻のある事もその時始めて知った。しかしその書体もけっして「其面影」流ではなかった。 それから、ずっと打絶えた。次に逢ったのは君が露西亜へ行く事がほぼ内定した時のことである。大阪の鳥居君が出て来て、長谷川君と余を呼ん・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・一、学問は、高上にして風韻あらんより、手近くして博きを貴しとす。かつまた天下の人、ことごとく文才を抱くべきにもあらざれば、辺境の土民、職業忙わしき人、晩学の男女等へ、にわかに横文字を読ませんとするは無理なり。これらへはまず翻訳書を教え、・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・芭蕉の叙事形容に粗にして風韻に勝ちたるは、芭蕉の好んでなしたるところなりといえども、一は精細的美を知らざりしに因る。芭蕉集中精細なるものを求むるに粽結片手にはさむ額髪五月雨や色紙へぎたる壁の跡のごとき比較的にしか思わるる・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・一九三〇年の今日、朝鮮銀行の金棒入りの窓の中には、ソヴェト当局によって封印された金庫がある。〔一九三一年一、二月〕 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・亀やの包みは先方であなたからの手紙を見せてくれなければなどと普通でない面倒なことを云ったので手間どり、年末にやっととりました。封印がしてあって、靴、書類カバン、セル下着類が出ました。中に裏だけの着物が一枚あり。表をはがして着ていらしったので・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・という封印だけがかたくされて日々の実際に適切な国家的な保護をうけていない「国宝」たちのきょうの運命こそ危機にある。「国宝」をもっていると財産税がかかり、贈りものにすれば贈与税、売れば譲渡税。その負担にたまらなくなった美術ボスたちがあれこれ細・・・ 宮本百合子 「国宝」
出典:青空文庫