・・・天皇の名によって行われていたスパイと憲兵の絶対的な軍国主義権力が崩れて三年四年たってみると、情報局の報道と大本営発表でかためられた偽りの壁と封印の跡が、あたらしい回想と、そこに湧く批判の真実に消されはじめた。一九四五年の秋「君たちは話すこと・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・日本画家が今日尚住んでいることの出来る風韻の世界を、日本文学は既に四五十年以前失っているのである。 文学作品が現実を語るという本質から、今日、日本の文化勲章が簡単に作家に与えられないという事情は、文学の側から言えば名誉であろうとも、不名・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・戸棚には錠がおろされ、赤い封印がついている。 ――住んでいたのはこっちです。 三尺の戸がついていて奥の室へ通じる。入口の室の倍ほどの大きさの四角い室だ。どっちにしろごく小さい室だ。むきだしの木の床に粗末な赤ラシャ張りの椅子が三四脚あ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・いつも封じめには封蝋の代りに赤だの青だののレースのような円い封印紙が貼りつけられた。小さい私は、そのテーブルのわきに立って、やがてオトーサマと紙からあふれるような字を書くことを習った。あとにはいつもつづけて、ハヤクオカエリナサイ、と書いた覚・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
出典:青空文庫