・・・ただへいへいと申上げますと、どうだね、近頃出来たばかり、年号も今年のだよ、そういうのは昔だって見た事はあるまい、また見ようたって見せられないのだから、ゆっくり御覧、正直な年寄だというから内証で拝ませるのだよ。米や茶をさしておやり、と莞爾つい・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・ その農家の親仁が、「へいへい、山雀の宿にござります。」「ああ、風情なものじゃの。」 能の狂言の小舞の謡に、いたいけしたるものあり。張子の顔や、練稚児。しゅくしゃ結びに、ささ結び、やましな結びに風車。瓢箪に宿る山雀、・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・餓えてや弱々しき声のしかも寒さにおののきつつ、「どうぞまっぴら御免なすって、向後きっと気を着けまする。へいへい」 と、どぎまぎして慌ておれり。「爺さん慌てなさんな。こう己ゃ巡査じゃねえぜ。え、おい、かわいそうによっぽど面食らった・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・――静御前様、へいへいお供をいたします。夫人 お待ちなさい、爺さん。(決意を示し、衣紋私がお前と、その溝川へ流れ込んで、十年も百年も、お前のその朝晩の望みを叶えて上げましょう。人形使 ややや。夫人 先生、――私は家出をいたしまし・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・「いや、これは便利な男がいたものだ。」と、すっかりかんしんして、「これから私のお供になってくれないか。」と言いました。「へいへい、それはねがってもない幸でございます。」と、棒は大喜びで、すぐに家来になりました。王子は二人をつれて・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・ 「特別に許してやろう。お前を少尉にする。よく働いてくれ」 狐が悦んで四遍ばかり廻りました。 「へいへい。ありがとう存じます。どんな事でもいたします。少しとうもろこしを盗んで参りましょうか」 ホモイが申しました。 「いや・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・「おいもう一杯おくれ。」「も一杯お呉れったらよう。早くよう。」「さあ、早くお呉れよう。」「へいへい。あなたさまはもう三百二杯目でございますがよろしゅうございますか。」「いいよう。お呉れったらお呉れよう。」「へいへい。・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・「あいや、しばらく待て。そちは何と申す」「へいへい。私は六平と申します」「六平とな。そちは金貸しを業と致しおるな」「へいへい。御意の通りでございます。手元の金子は、すべて、只今ご用立致しております」「いやいや、拙者が借り・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
出典:青空文庫