・・・この意味において私は第四階級に対して異邦人であると主張したのである。 明日になって私のこの考え、この感じはどう変わっていくか、それは自分でも知ることができない。しかしながら「宣言一つ」を書いて以来今日までにおいては、諸家の批判があったに・・・ 有島武郎 「想片」
・・・要旨を掻摘むと、およそ弁論の雄というは無用の饒舌を弄する謂ではない、鴎外は無用の雑談冗弁をこそ好まないが、かつてザクセンの建築学会で日本家屋論を講演した事がある、邦人にして独逸語を以て独逸人の前で演説したのは余を以て嚆矢とすというような論鋒・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・古代の人が驚異したのに無理はないが、今日はバッチェット方法、ポイグナード方法、その他の方法を知れば、随分大きな魔方陣でも列べ得ること容易である。しかし魔方陣のことを談るだけでも、支那印度の古より、その歴史その影響、今日の数学的解釈及び方法ま・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・兄弟にのみ挨拶すとも何の勝ることかある、異邦人も然するにあらずや。然らば汝らの天の父の全きが如く、汝らもまた、全かれ。 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・この権威の財団法人といったようなものの権威の程度はどのようであろう。これとても決して絶対的なものではない。 つまり各部門においては現在既知の知識の終点を究め、同時に未来の進路に対して適当の指針を与え得るものが先ず理想的の権威と称すべきも・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・大勢の踊手が密集した方陣形に整列して白刃を舞わし、音楽に合せて白刃と紙の采配とを打合わせる。その度ごとに采配が切断されてその白い紙片が吹雪のように散乱する。音頭取が一つ拍子を狂わせるとたちまち怪我人が出来るそうである。 映画の立廻りの代・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・当時巴里に於て、一邦人が独力にしてマネエ、ロダンの如き巨匠の製作品と、又江戸浮世絵の蒐集品とを仏蘭西人の手より買取ったことがあった。是亦戦争の余沢である。オペラは帝国劇場を主管する山本氏の斡旋に依って邦人の前に演奏せられ、仏蘭西近世の美術品・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・カツフヱーノ語ハモト仏蘭西ヨリ起ル。邦人妄ニ之ヲ借リ来ツテ酒肆ニ名クト雖其ノ名ノ実ニ沿ハザルコト蓋甚シキモノアリ。是亦吾社会百般ノ事物西洋ヲ模倣セント欲シテ到底模倣ダニ善クスルコト能ハザルノ一例ニ他ナラズ。酒茶ノ味ノ如キハ固ヨリ言フ可キ限リ・・・ 永井荷風 「申訳」
佐藤春夫氏の提唱によって、文芸懇話会の解散後「新日本文化の会」が出来た。同時に文部省が五十万円の補助金を出して、文部・外務・民間思想文化連合の統一体として財団法人「中央文化連盟」が結成された。先頃、帝国芸術院が出来て、一般・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
・・・ 面という言葉はペルソナと異なって人格とか法人とかの意味を獲得してはおらない。しかしそういう意味を獲得するような傾向が全然なかったというのではない。「人々」という意味で「面々」という言葉が用いられることもあれば、各自を意味して「めいめい・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫