・・・この島ではまず眼の大きい、頬のどこかほっそりした、鼻も人よりは心もち高い、きりりした顔が尊まれる。そのために今の女なぞも、ここでは誰も美しいとは云わぬ。」 わたしは思わず笑い出しました。「やはり土人の悲しさには、美しいと云う事を知ら・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・清らかに、ほっそりと。――白はただ恍惚とこの犬の姿に見入りました。「あら、白は泣いているわよ。」 お嬢さんは白を抱きしめたまま、坊ちゃんの顔を見上げました。坊ちゃんは――御覧なさい、坊ちゃんの威張っているのを!「へっ、姉さんだっ・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・それに、肩のとこなんか、やるせないくらい、ほっそりしてなさるもの。さっきお湯で見たとき、すぐ胸がお悪いねんやなあと思いましたわ」 そんなに仔細に観察されていたのかと、私は腋の下が冷たくなった。 女は暫らく私を見凝めるともなく、想いに・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・ 胸を病む少女のように、色が青白くまつ毛が長く、ほっそりと頬が痩せている。 いわば紅顔可憐だが、しかしやがて眼を覚まして、きっとあたりを見廻した眼は、青み勝ちに底光って、豹のように鋭かった。 その眼つきからつけたわけではなかろう・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・百姓には珍らしく、からだつきがほっそりして、色が白く、おとなになったら顔がちょっとしゃくれて来て、悪く言えば般若面に似たところもありましたが、しかし、なかなかの美人という町の評判で、口数も少く、よく働き、それに何よりも、私に全然れいのこだわ・・・ 太宰治 「嘘」
・・・からだが、ほっそりして、手足が可憐に小さく、二十三、四、いや、五、六、顔は愁いを含んで、梨の花の如く幽かに青く、まさしく高貴、すごい美人、これがあの十貫を楽に背負うかつぎ屋とは。 声の悪いのは、傷だが、それは沈黙を固く守らせておればいい・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ 眉山の年齢は、はたち前後とでもいうようなところで、その風采は、背が低くて色が黒く、顔はひらべったく眼が細く、一つとしていいところが無かったけれども、眉だけは、ほっそりした三ヶ月型で美しく、そのためにもまた、眉山という彼女のあだ名は、ぴ・・・ 太宰治 「眉山」
・・・ごめんなさい。」ほっそりした姿の女である。眼が大きく鼻筋の長い淋しい顔で、黒いドレスが似合っていた。「さちよと、逢わせたくなかったの。あの子は、とても、あなたのことを気にしている。せっかく評判も、いいところなんだし、ね、おねがい、あの子を、・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・おハガキ頂きませば『仰日』の御礼のこころとしてお送りいたしますが―― わたくしはふとっていて、作品を通しての夫人はほっそりと小柄なお方のように思えます。よろしくおつたえ下さい。夫人はどんな本をおこのみでしょうか。〔一九五一年二月〕・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・室の真ん中にタイプライターが一台おいてあり、それに向ってほっそりした、これもごく教養的な女が膝を行儀よく揃えて坐り二人の日本女のために幾通かの紹介状をうってくれた。 出て来た時には、リラの木の下のベンチにもう誰もいず、門の前の歩道を犬を・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫