・・・一日、ホット・レモンを飲んで床についたが、無惨に高い天井を眺めているうちに思ったことがある。それは、雑誌のことで、雑誌も、正月の『婦人公論』についてである。 初め、女流百人百題という題を見、ジャアナリズムを感じただけであった。順ぐり読む・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・しかし、その席につらなった或る種の人は「酒があるのでほっとした」と語ったそうだ。そしてその言葉で、わたしの感じかたは、酒をたしなまない女のかたくるしさ、いつも白い襟がすきというような趣味と見られるようだった。 ところが、段々あとになって・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・自分の部屋に入って炬燵にあたった彼もほっとしたようにスパリとたばこを一服してホットしたように溜息をした。 宮本百合子 「心配」
・・・ 残念でもあり、ほっとした安心もあり、辷り落ちていく暗さもあった。明日からまたこうして頼りもない日を迎えねばならぬ――しかし、ふと、どうしてこんなとき人は空を見上げるものだろうか、と梶は思った。それは生理的に実に自然に空を見上げているの・・・ 横光利一 「微笑」
・・・そして自分の周囲に広い黒い空虚のあるのを見てほっと溜息を衝いた。その明りが消えると、また気になるので、またマッチを摩る。そして空虚を見ては気を安めるのである。 また一本のマッチを摩ったのが、ぷすぷすといって燃え上がった時、隅の方でこんな・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫