・・・海面に張り出して、からりとした人民保養委員会のレストランなども見えているが、どういう訳か遊歩道には前にも後にも人が疎で、海から吹いて来る強い風に、コックの白上衣が繩につられてはためいている。 海沿いの公園では夾竹桃が真盛りであった。わき・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・病身な未亡人は願済の上で、里方桜井須磨右衛門の家で保養することになった。 さていよいよ九郎右衛門、宇平の二人が門出をしようとしたが、二人共敵の顔を識らない。人相書だけをたよりにするのは、いかにも心細いので、口入宿の富士屋や、請宿の若狭屋・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・六郎は東京にて山岡鉄舟の塾に入りて、撃剣を学び、木村氏は熊谷の裁判所に出勤したりしに、或る日六郎尋ねきて、撃剣の時誤りて肋骨一本折りたれば、しばしおん身が許にて保養したしという。さて持てきし薬など服して、木村氏のもとにありしが、いつまでも手・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・今時分お帰りなさるようでは、あなたは御保養にいらっしゃったのではございませんね。」「いいえ。わたくしも病気なのでございます。」 この詞を、女は悲しげに云った。しかし悲しいながらも自分の運命と和睦している、不平のない声で云った。 ・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫