・・・の女子教育法に制せられ、遂に社会全般の習慣を成して、舅姑も嫁も共に苦労することなれば、斯く無理なる所望して失敗するよりも、行われざる事は行われずとして他に好手段を求め、人情の根本より割出して家の幸福を全うせんこと我輩の望む所なり。一 文・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・もしも然らずして、相互いに疎んじ相互いに怨んでその情を痛ましむるが如きありては、配偶の大倫を全うすること能わずして、これをその人の不徳と名づけざるを得ず。我輩窃かに案ずるに、かの伊奘諾尊、伊奘冊尊、またはアダム、イーブの如きも、必ずこの夫婦・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ 東洋和漢の旧筆法に従えば、氏のごときは到底終を全うすべき人にあらず。漢の高祖が丁公を戮し、清の康煕帝が明末の遺臣を擯斥し、日本にては織田信長が武田勝頼の奸臣、すなわちその主人を織田に売らんとしたる小山田義国の輩を誅し、豊臣秀吉が織田信・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・同じ社会的な条件で、その愛も全うされなかった男女、その間に生れた雄々しい若者。最後のクライマックスで、封建社会での王は最も頼みにしているルスタムの哀訴さえ自身の権勢を安全にするためには冷笑して拒んだ非人間らしさを描き出している。「渋谷家・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・幸福や幸運というものがいかにもぼんやり遠くにあって、今日の現実とは反対のものとして心に描かれているような社会の条件のなかでこそ、幸運の手紙はその循環を全うし得るのではなかろうか。 地球を七巻き巻くとかいう云いかたも執念めいた響きを添える・・・ 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・そこで、フダーヤは癇癪を起して私を起してしまわないため、よい仲間という名を全うするため、海水帽の鍔を風にはためかせ、釣れぬ釣に出かけるのだ。 ――今に、私どもがテニスの稽古をしはじめたら、また当分、中流的しかつめらしさが癖になった土地の・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・婦人の幸福は家庭にあり、家庭において婦人が婦徳を全うすることこそ日本文化の世界に誇るべき輝きであると論じ、婦人参政権運動の市川房枝女史も座談会の席上でもとの婦選運動は男性に対して行われたような点がなくはなかったが、この頃は婦人の特徴をよく理・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・家庭の純潔が言われても、社会がこれらの家庭の純潔を全うさせるだけの条件を一つも備えていなかったことはオルゼシュコの「寡婦マルタ」の哀れな生涯がまざまざとしめしている。それどころか近代文学の殆んど総てはこの近代の神聖な結婚と純潔な家庭生活等を・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・その大事業に対する女の責任を全うするためには男と同じような頭脳の鍛錬は必要なことと見られていたのであった。 今日も大体そのような女学校教育がつづいている。ところが、歴史の強力な変化は、若い女のひとが学校を卒業したらすぐ家庭でお嫁入りの仕・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・彼はかつて自分に手足があった時、その若々しい手足の働きで全うして来た自分の任務、その手足がなくなった後は、一対の輝かしい眼によって為し遂げて来たこと、その眼が奪われた後には、彼の強い頭脳と意志とによってなし得ること――「かつてあったことを文・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫