・・・とてもまやかしは利きませんからな。いくら自分で、自分の作品を賞め上げたって、現に価値が測定器に現われるのだから、駄目です。無論、仲間同志のほめ合にしても、やっぱり評価表の事実を、変える訳には行きません。まあ精々、骨を折って、実際価値があるよ・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・ 一枚、畚褌の上へ引張らせると、脊は高し、幅はあり、風采堂々たるものですから、まやかし病院の代診なぞには持って来いで、あちこち雇われもしたそうですが、脉を引く前に、顔の真中を見るのだから、身が持てないで、その目下の始末で。…… 変に・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・「私が、命がけで山に登って採った草の根や木の実で造ったもので、いいかげんなまやかしものではありません。一本のにんじんをとりますのにも、綱にぶらさがって、命をかけています。またこのくまのいは、自分が冬猟に出て打ったもので、けっして、ほかか・・・ 小川未明 「手風琴」
・・・洋館まがいの部屋などあるが、よぼよぼのまやかし医者で、道具も何もなく、舌を押えて覗いては考え、ピンセットを出しては思案し、揚句、この辺ですか、とかき廻されたのでやめにして来た由。「一円とられた。この医者大藪って貼紙して来てやろうか」 S・・・ 宮本百合子 「金色の秋の暮」
・・・ これから森田氏がどういう作品をかかれるか知らないけれども、六十八歳でこのまやかしだらけの日本の民主化に対して自分の社会人としての良心的在り場所を示されたことはうなずけます。 一九三三年以後日本のファシズムと侵略戦争の推進に対して、・・・ 宮本百合子 「心から送る拍手」
・・・困窮な下層小市民の家庭から出て、大学教育まで受け、時代の波に洗われて親が描いたような出世の道は辿らなかった一青年が、遂に自分の教養、知性のまやかしものであることに思い到って、出生した社会層の伝習とその粗野な表現に新しい人間的値うちを見出す心・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ だが、この会場に漲る活気と画題のまやかしでない現実性とは、実に興味深いものがある。第一室にある数枚の絵を見ただけで自分は感じた、――日本のプロ美術家はやっぱりうまい! と。 世界の一般プロレタリア芸術運動は、いつでもすでに革命・・・ 宮本百合子 「プロレタリア美術展を観る」
出典:青空文庫