・・・この本に沿って、三笠書房の歴史全書中の「洋学論」が読まれたなら、著者が一つの情熱をもって、祖先たちが世界の真理の到達点を、わが封建の日本へ新しい力として齎そうとした努力の価値を語っていることを知ることが出来る。東洋経済新報社出版の「現代日本・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ 人々は、人間である天皇、人間である三笠宮に親愛感をもつことに馴れて来た。皇太子が、唯一の御馳走は、カレーライスだと思っているということについて、人々は小生意気で早熟な闇成金の息子たちに対するのとはちがった、ほほ笑みをもらすのである。皇・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・ 三笠書房で出版されている唯物論全書の仕事も、今日の我々の周囲をとりかこむ社会の色調との対照に於て、深く評価されなければならず、同時に社会の底潮の頼もしさをも感じさせる。 新島繁氏がこの全書の一冊として著わされた「社会運動思想史」は・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・ お玉杓子が湧き、ちゃくとり――油虫の成虫――がわやわや云いながら舞いさわぐ下の耕地にはペンペン草や鷺苔や、薄紫のしおらしい彼岸花が咲き満ちて、雪解で水嵩の増した川という川は、今までの陰気に引きかえまるで嬉しさで夢中になっているようにみ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・はるかな西のかん木のしげみの間から、現われて来る流れは、小さな泡沫を沢山浮べながら、さも愉快そうにゆれゆれて流れ、池へ入る口では、せばめられた水嵩が、周囲の草や石にあたって、心のすがすがするような高い、透明な響を起す。その傍に、小さな小屋を・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
出典:青空文庫