・・・こんな微細な作業から大きいこともしてゆく人間の精神への感興が、おのずから湧きおこされて来る。 ヴォルフがいつも自分の撮そうとする対象を愛しているということは、その作品集の日本の編者も絶讚していることだけれども、芸術家が対象を愛すというの・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・ 種々な点から反省して見て、自分には、今日女性が作家としてまだ完全に近い発達を遂げていないのは、箇性の芸術的天分と、過去の文化的欠陥が遺伝的に女性の魂そのものに与えた、深い悲しむべき影響との間に起る、微細な、然し力強い矛盾に原因しているよう・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・第二、若し其れだけの心の力がある人なら、相手の表情、話題、話す調子に表われる微細な性格が感じられるだろうと思います。〔一九二一年二月〕 宮本百合子 「結婚相手の性行を知る最善の方法」
・・・ うなりを立てて廻転する大都会の車輪の一端に、辛くも止まって居る微細な神経は、過度な刺激で或程度にすりへらされて居ります。 そのすりへらされた神経に与える変化は、どうしても濃厚なものでなければなりません。生活に疲れた頭は決して、低声・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・今日新しくプロレタリア文学の活動を開始した有能な人々が、どのくらい、文学の特殊的な技術の問題について、その微細な点にまで具体的探究をすすめようと努力しているかということがよくわかる。過去の日本の若いプロレタリア文学運動が顕著な弱点として持っ・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・その訛が、顔や体に現れる微細な動き、調子とひどく調和してい、一種性格的なものを感じさせる。――私は、この特徴に富んだ人をどう理解してよいのか分らなかった。赧い赧い頬、それと極めて鮮やかな対照をなしつつぽやぽやっと情熱的にほやついている漆黒な・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・こんなに鮮やかに、こんなに微細な髪のくせまで判っている彼女の全存在が、只私の心にだけ止っている影像に過ないとは、何という不思議だろう! 物静かなこの淋しさは、私に種々のことを思わせた。特に、将来自分がいつかは経験しなければならない愛する・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・これ等が微細な実行問題となっては、種々な部分と、方法とに岐れます。これ等の、相互の生活が結合しないうちは何にも影響のないことであって、いざ一家を持つと種々な面倒や感情の齟齬を来しそうな点について、出来る丈精密な熟議を凝します。男子も同様な方・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ゴーリキイは感受性の鋭い、智的というより感覚的な作家であって、目撃した人間の微細な動作、声や目の感じなど鋭利にとらえているけれども、人間と人間との輪廓、人間と人間との間に生じている遠近法などの把握では、常に何か茫漠としている。そういう部分が・・・ 宮本百合子 「長篇作家としてのマクシム・ゴーリキイ」
・・・更に一八八四年に公表された大学規定は大学生のこれまで持っていた学内自治権を奪い「学生生活のあらゆる微細な点まで干渉する学監、副監督、守衛等によって監視され、更に警察の監視の下に置かれるようになった」のである。この事情が、デレンコフの収支を次・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫