・・・軽部は大阪天王寺第×小学校の教員、出世がこの男の固着観念で、若い身空で浄瑠璃など習っていたが、むろん浄瑠璃ぐるいの校長に取りいるためだった。下寺町の広沢八助に入門し、校長の相弟子たる光栄に浴していた。なお校長の驥尾に附して、日本橋五丁目の裏・・・ 織田作之助 「雨」
・・・ひしめき合い、自分が何某という独立の人格を持った人間であることを忘れるくらいの目に会って、死に物ぐるいで奈良に到着し、息も絶え絶えになって御物を拝見してまわり、ああいいものを見た、結構であったと、若い身空で溜息をついている。まことにそれも結・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・若い身空でありながらわざと入れようとしないのは、むろん不精からだろうが、それがかえって油断のならない感じかも知れない。精悍な面魂に欠けた前歯――これがふと曲物のようなのだ。いずれにしても一風変っている。 変っているといえば、彼は兵古帯を・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・若い身空で最近は講演もするということだ。あれほどの病気もすっかり癒ってしまったとは思えないが、見たところピチピチして軽く弾んでいる。角がとれ、愛想の良くなったことは驚くばかりだ。血色のよい頬にその必要もなさそうな微笑を絶えず泛べている。以前・・・ 織田作之助 「道」
・・・時に俄に身空中にあり、或は直ちに身を破る、悶乱声を絶す。汝等これをたんじきするに、又懺悔の念あることなし。 斯の如きの諸の悪業、挙げて数うるなし。 悪業を以ての故に、更に又諸の悪業を作る。継起して遂に竟ることなし。昼は則ち日光を懼れ・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・あれからは、俺もお前も、若い身空で苦労をした。しかし、まア、いいさ。どっちも、わがままのいい合いをして来たんだからね。それに俺だって、お前に一度もすまぬようなことをして来てないし、お前も俺にあやまるようなことはちっともなかったし、まア、俺た・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫