・・・という意味をいったそうである。そういう一言はピンと誰の胸にも来る。そういう現実の中では読者の興味も極めて具体的な面をもっているのである。 「作家」という名詞の内容 やはり『文芸』の八月号を見ていて感ずることであ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・国威というものの普通解釈されている内容によって、それを或る尊厳、確信ある出処進退という風に理解すると、今回のオリンピックに関しては勿論、四年後のためにされている準備そのものの中に、主としてそういう抽象名詞を愛好する人の立場から見ても何か本質・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・それはだぶついていつも曖昧さを漂わせている日本の名士づらに鋭く対照する面構えである。 この指導者が、縦横無尽という風に、ときに悪態さえ交えながら、しかも、婦人たちの本能的なつつしみには自然のいたわりをもっていて、荒っぽく、しかも淡白な話・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 昔の外国のロマンチシズムの時代を顧みるとなかなか興味のあることは、抽象名詞が雄飛した割合に、作品で後にのこるものがないことである。明日の日本の文学が雄大なものであるためには、今日の生活の現実に徹しなければならず赫々たるものに対してはま・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・ 昔、西園寺公が夏目漱石を筆頭に、文壇的名士を招待したことがあった。その時、漱石は、句は忘れたが、折角ほととぎすが鳴いているが、惜や自分は厠の中で出るに出られぬという意味の一首を送って、欠席したという話がある。その時、漱石は仕事がひどく・・・ 宮本百合子 「文壇はどうなる」
・・・男の人々も自分の愛する女、妻、家庭と考えると、そういう名詞につれて従来考えられ描かれて来ている道具立てを一通り揃えて考え、職業をもっている婦人だって妻は妻と、その場合自分の妻としてのある一人の女を見ず、妻という世俗の概念で輪廓づけられている・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・ 石田は司令部から引掛に、師団長はじめ上官の家に名刺を出す。その頃は都督がおられたので、それへも名刺を出す。中には面会せられる方もある。内へ帰ってみると、部下のものが名刺を置きに来るので、いつでも二三枚ずつはある。商人が手土産なんぞを置・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・そして名刺入から、医学士久保田某と書いた名刺を出してわたした。 ロダンは名刺を一寸見て云った。「ランスチチュウ・パストョオルで為事をしているのですか。」「そうです。」「もう長くいますか。」「三箇月になります。」「Avez・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫