・・・しかし、やがて玉子が女の子をうむと、新次は私が言って聴かせる継子という言葉にうなずいて、悲しそうな表情を泛べるようになったので、私も新次がその女の子の守をしているのを見ると、ちょっとかわいそうになった。そして、父の方をうかがうと、父はその女・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・すると、かたわらに顫えていた十位の女の子が、「おっちゃん、うちも中イ入れて」 と、寄って来た。「よっしゃ、はいりイ。寒いのンか。さア、はいりイ」「おおけに、ああ、温いわ。――おっちゃん、うちおなかペコペコや」「おっさんも・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ またあちらでは女の子達が米つきばったを捕えては、「ねぎさん米つけ、何とか何とか」と言いながら米をつかせている。ねぎさんというのはこの土地の言葉で神主のことを言うのである。峻は善良な長い顔の先に短い二本の触覚を持った、そう思えばいかにも・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ しばらくしてその女の子の首は楽になりました。私はそれを待っていたのです。そして今度は滑稽な作り顔をして見せました。そして段々それをひどく歪めてゆきました。「おじいちゃん」女の子がとうとう物を云いました。私の顔を見ながらです。「これ・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・いつぞや遠く満州の果てから家をあげて帰国した親戚の女の子の背丈までもそこに残っている。私の娘も大きくなった。末子の背は太郎と二寸ほどしか違わない。その末子がもはや九文の足袋をはいた。 四人ある私の子供の中で、身長の発育にかけては三郎がい・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・おばさんは、それから、男の子とちょうどおない年ぐらいの女の子をよび出しました。そして、二人でおあそびなさいというように、うなずいて見せて、ふたたびお家へはいって仕事をしました。 その小さな女の子も、じぶんとおなじように、はだしのままで、・・・ 鈴木三重吉 「岡の家」
・・・さっき玉子を持ってきた女の子がくれてったんですの。どこかの石垣に咲いていたんだそうです。初やがね、これはこのごろあんまり暖かいものだから、つい欺されて出てきたんですって」 返した花を藤さんは指先でくるくる廻している。「本当にもう春の・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・それから生れた女の子の名付親に、お前さんをしたのね。その時わたしがあの人に無理に頼んで、お前さんにキスをさせたのね。あの人はこうなれば為方がないという風でキスをする。その時のお前さんの様子ってなかったわ。まあ、度を失ったというような風ね。そ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・ 女の子が、スバシニと云う名を与えられた時、誰が、彼女の唖なことを思い当ることが出来ましょう。彼女の二人の姉は、スケシニスハスニと云う名でした。お揃にする為、父親は一番末の娘にも、スバシニと云う名をつけたのでした。彼女は、其をち・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・辻占売の女の子が、ビヤホールにはいって来ました。博士は、これ、これ、と小さい声で、やさしく呼んで、おまえ、としはいくつだい? 十三か。そうか。すると、もう五年、いや、四年、いや三年たてば、およめに行けますよ。いいかね。十三に三を足せば、いく・・・ 太宰治 「愛と美について」
出典:青空文庫