・・・上海その他へ出かけて、目下戦線ルポルタージュ専門の如き観を呈している林房雄氏が上述の提唱の首脳であったことは説明を要しない。文芸懇話会賞というものをその作「兄いもうと」に対しておくられた室生犀星氏は、自身の如く文学の砦にこもることを得たもの・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・又は、目下の露国社会状態に反感を持ち、些の愛も感じられない人々。どうぞ、時々外国の新聞や雑誌に現れる、彼等の恐ろしい飢餓の有様を見て下さい。 あの痩せ衰え骸骨のようになったロシアの子供等が、往来に――恐らくこれも飢から――斃死した駄馬の・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・「労働者階級の意識は、たとえそれが如何なる階級に関係したことであろうとも、恣意と圧制、暴力と濫用が行われたときは、いついかなる場合にも黙過しないようにならされているのでなければ、真に政治的な意識ではない」ということは、民主主義とその文学・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・都会に起ることは知識階級の注意を呼び醒し易いが、この新八景投票のように地方を中心としている現象は、案外多くの弊を生じつつ黙過され勝だ。芸人の投票を昔小新聞がしたように、投票者が実在してもしないでもよい、数さえあれば――つまり運動費が最後の勝・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・第二部の正誤は私の作ったのが目下富山房の手にある。これも紙型は象嵌で直し、未正誤本には正誤表を添える積でいたところが、世間の誅求が急なので、未正誤本が正誤表を添えずに売り出された。現に世間に出ているのも富山房にあるのも、第二部は悉くこの未正・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・勝利を得るまでの分裂した生活の惨めさは、目下の自分の力ではいかんともし難い。 私は一つのことを悟り得た。迷いと屈托とに遅滞しているゆえをもって、直ちにその人の人格を卑しめてはいけない。態度の純一のゆえに、直ちにその人の人格を過大視しては・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・ここに人類の意志を明らかにし、真実の価値の階級を樹立することは、大いなる価値の実現のために、従って人類のために、目下緊急の大事である。 なお岸田君の著書に著しい「内なる美」、「装飾」、「写実」等の考え方についても、一言付加しておく必要を・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫