・・・「それは、野にも、山にも、圃にも、花という花はあったし、やんわりとした空気には、甘い香りがただよっていた。鳥が鳴き、流れがささやき、風さえうたうのだから音楽がいたるところできかれたものだ。それは、このごろの悲しい歌とちがって力のあふれた・・・ 小川未明 「冬のちょう」
・・・ よくお聞き、何物にもかえがたい私の妹をだよ、たった一人の、―― どうぞお前方には尊すぎる花嫁を迎える新床をやんわりと柔らかくフンワリとやさしくしてお呉れ。どうぞね、土よ。 残されて歎く一人の姉の願いを聞いてお呉れ。 雨が・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・まるで女の様な手の曲線を作って本調子で何だかこう、あまったれた様なやんわりした気持になるものを爪弾して居るそのうしろには豊国の絵の女がほほ笑んで、まっくろに光る毛なみとまっさおな目をもった猫は放った絵絹の上にねて居る――何となしに私の心持に・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫