・・・たとえば収賄の嫌疑で予審中でありながら○○議員の候補に立つ人や、それをまた最も優良なる候補者として推薦する町内の有志などの顔がそれである。しかしまた俗流の毀誉を超越して所信を断行している高士の顔も涼しかりそうである。しかしこの二つの顔の区別・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・ 私は大分飲んでいた。時は蒸し暑くて、埃っぽい七月下旬の夕方、そうだ一九一二年頃だったと覚えている。読者よ! 予審調書じゃないんだから、余り突っ込まないで下さい。 そのムンムンする蒸し暑い、プラタナスの散歩道を、私は歩いていた。何しろ横・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・三月二十四日に予審が終った時、私は外に出たら何よりも先にあなたのところへ出かけてゆき、過去一年間の様々の経験の中から積み重ねた成長の花束を見せて上げたい、見て欲しいと思っていたのですが、公判がすまないうちは面会も手紙も許可されぬ由。其で、こ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ そこを予審判事が特別に注意したことから、無罪を証明し得るに至る過程は成立しているのである。 一般の読者は、この全く特徴的な数行を何等不思議な気がしないでよむのだろうか。探偵小説の読者というものは、こういう我々の常識で合点のゆかない・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・市ヶ谷刑務所から東京地方裁判所に通って予審がはじまった。一月三十日、父の急死によって葬儀のために仮出獄した。二月。二月二十六日事件を裁判所で知った。小使がつい、予審判事に戒厳令という言葉を言ったために。三月。下旬、予審終結。ひど・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫