・・・しかし考巧忠実な店員に接し掌をさすように求める品物に関する光明を授けられると悲観が楽観に早変わりをする。現代の日本がやはりたのもしく見えて来ると同時に眼前の書籍を知らぬ小店員を気の毒に思うのである。 ドイツのある書店に或る書物を注文した・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・だから日本の文壇は前途多望、大いに楽観すべき現象に充ちていると思います。 そこで今云った通り新参の私のあとから、すでに四五人の新進作家が出るくらいだから、そのあとからもまた出て来るに違ない。現に出つつあるんでしょう。また未来に出ようとし・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・と作者は楽観している。 師範卒業生佐田の安直ぶりが、階級的発展の端緒としての意味をもつ未熟さ、薄弱さとして高みから扱われているのではなく、作者須井自身にとっても弱い一点であることは、「幼き合唱」のところどころの文章にうかがわれる。大体作・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 極く楽観的なものと意志の強い立志伝的なものをまぜてそれ等のものが二十ある中に涙の出るものは六七あればいいんです。 悲しみと云うものは世のすべてのものより勝って微妙なものですけれ共少女小説のいままでのものに表われて居るのは必して考え・・・ 宮本百合子 「現今の少女小説について」
・・・そして、頻りに、「これは私の老婆心からだが、あなたなんぞもここで大いに将来を考える時だね、この様子じゃ、決して楽観は出来ませんよ……やるなら死ぬ覚悟だ」と云い、そういう時は、特別声を潜め、言葉をひきのばして云うのである。 当日軍・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 現代の日本女性に就て公平に考えて見ると、或種の人々の考えて居るように、楽観すべきものでも無く、或人々の只一口にけなす程価値の無いものでもございません。教育家の一部が易々諾々として教案を草し、その教案によって百年一日の如く恐ろしい厭怠の・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・「それが、私は××だと思うんですが、落款がないんです、手に入れた時、夏目さんに見せたら、こりゃあいいと云っていた」 書斎の方に座って、陶器の話などした。私の父がこの頃少し凝りかけていたので、自然そんな方面に向ったものと見える。そんな・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・ そのような現実のいきさつを文化の問題として大局から見たとき、はたして婦人の文化能力の高揚と楽観していい切ることが可能であろうか。私たちはやはり率直に、転換期として今日現れている文化一般の混乱、低下を認めなければならず、いわば婦人作家の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ 明治以来の日本の支配者が人民に植えつけた戦争観をそっくりそのままもっている大多数の人々は、相変らずそれをさけられない投機的な災難として楽観的にうけとった。弱い日本の資本主義がどんな危険な冒険に着手したかということを人民から覆うために国・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・けれども、動員法によって動員された学徒、女子勤労挺身隊などの勤労状況は決して楽観すべきものではなかった。戦争遂行者たちは夢中で軍需生産の拡張を希望しているから、実際は全くインチキな施設と内容としか持たない工場でも、それが軍関係のものであって・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫