・・・兄哥だってそういわあ。船で暴風雨に濡れてもな、屋根代の要らねえ内で、姉さんやお浜ッ児が雨露に濡れねえと思や、自分が寒い気はしねえとよ。」「嘘ばッかり。」 と対手が小児でも女房は、思わずはっと赧らむ顔。「嘘じゃねえだよ、その代にゃ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ ――わあ―― と罵るか、笑うか、一つ大声が響いたと思うと、あの長靴なのが、つかつかと進んで、半月形の講壇に上って、ツと身を一方に開くと、一人、真すぐに進んで、正面の黒板へ白墨を手にして、何事をか記すのです、――勿論、武装のままであ・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・一番あとのずんぐり童子が、銃を荷った嬉しさだろう、真赤な大な臀を、むくむくと振って、肩で踊って、「わあい。」 と馬鹿調子のどら声を放す。 ひょろ長い美少年が、「おうい。」 と途轍もない奇声を揚げた。 同時に、うしろ向・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ええ、それをですわ、――世間、いなずま目が光る―― ――恥を知らぬか、恥じないか――と皆でわあわあ、さも初路さんが、そんな姿絵を、紅い毛、碧い目にまで、露呈に見せて、お宝を儲けたように、唱い立てられて見た日には、内気な、優し・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・「わあ、大変だ。孫はきっと天国で梨の実を盗んでるところを庭師に捕まって、首を斬られたに違いない。ああ、わしはどうして孫をあんな恐ろしい所へ遣ったんだろう。なぜ、皆様方は梨の実が欲しいなどと無理な事を仰しゃったのです。可哀そうに、わたくし・・・ 小山内薫 「梨の実」
・・・ふっと眼がしらが熱くなり、理由はわからぬが、泣きたくなった。わあ、と大声あげて叫び出したい思いなのである。けれども、立ち去るわけにいかない。それは、失礼である。なるほど、と感心した振りをして厳粛にうなずき、なおも見つづけていなければならぬの・・・ 太宰治 「花燭」
・・・ わあ! 何というゲスな駄じゃれ。全く、田島は気が狂いそう。 田島は妙な虚栄心から、女と一緒に歩く時には、彼の財布を前以て女に手渡し、もっぱら女に支払わせて、彼自身はまるで勘定などに無関心のような、おうようの態度を装うのである。しか・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・それに、あの、甘ったれた、女の描写。わあと叫んで、そこらをくるくると走り狂いたいほど、恥ずかしい。下手くそなのだ。私には、まるで作家の資格が無いのだ。無智なのだ。私には、深い思索が何も無い。ひらめく直感が何も無い。十九世紀の、巴里の文人たち・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・土にまろび、大声で、わあっと、わめき叫びたい思いである。胸が、どきんどきんと騒ぎ立ち、いても立っても居られぬのだ。なんとも言えず侘びしいのである。死にたく思う。酒を知ってから、もう十年にもなるが、一向に、あの気持に馴れることができない。平気・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・「わあ、よく来たものだ。」 と皆々あきれ、かつは感嘆した。 この時の異様な酒宴に於いて、最も泥酔し、最も見事な醜態を演じた人は、実にわが友、伊馬春部君そのひとであった。あとで彼からの手紙に依ると、彼は私たちとわかれて、それから目・・・ 太宰治 「酒の追憶」
出典:青空文庫