・・・ねえ、アナーキーってどんな事なの? あたしは、それは、支那の桃源境みたいなものを作ってみる事じゃないかと思うの。気の合った友だちばかりで田畑を耕して、桃や梨や林檎の木を植えて、ラジオも聞かず、新聞も読まず、手紙も来ないし、選挙も無いし、演説・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・作者が主題をそこまで積極的にプロレタリアの課題とするところまで高めたなら、佐田の実践はよしんばあの形態において書かれたにしろ、その個人的な非組織性――小ブルジョア的なアナーキー性に対し、作者は目的を貫徹するための執拗な周密な行動を、集注し指・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・こんなアナーキーな突発的な虫を体に入れておくことは何とも承知出来ない。いろいろ条件がわるく重なったとき、又きっとやるのだから。近日又ゆっくり常態で書きますが、今日は文字通り同病の誼による御機嫌伺いを申します。[自注23]ベッドの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・社会の秩序を知り得る場所で性格の破綻からそれをあえて破ろうとするアナーキー的本質のものではない。サーニは、ああなるのは当然だ、何故なら、土台社会人としての可能を持って生れているのだから。黒須千太郎や平尾を筆頭とするその教師らのように、社会の・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・智能の低い、考え判断する能力を与えられていない人民の多数が、自分たちの貧困を克服するために、組織的に行動するよりもアナーキーに陥り、選挙権をもっていてもどういう政党に投票してよいか分別もつかないで、資本主義の搾取というものに疑問をもたない人・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・舟橋聖一氏が昨今提唱する文学におけるリベラリズムの根源は、そういう反動的憎悪とかつて進歩の旗のにないてであったものへの報復的アナーキーの危険の上にたっているのを見て、私はつよくそのことを考えるのである。 ロシア文学史は、どの時代をとって・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫